5 余所者
「りおくん♡ なでなでして……♡」
「わっ——————!」
大声を出してベッドから起きるりお。
ゆ、夢か……? それは夢だったのか……? マジかよ。
冷や汗と震えている指先……。
そして制服を脱いだ霞沢が、半裸の姿で俺に甘える夢を見てしまった。どうしてそんなに生々しいんだ……? どうして……下着の色までちゃんと覚えてるんだ……? 完全に狂ってしまったのかよ、俺は……。馬鹿馬鹿しい。
朝から変な夢を見て———。
その時、霞沢からラ○ンがきた。
霞沢「おはよう。北川くん!」
可愛いスタンプとともに朝の挨拶か、そういえば霞沢が引っ越してくる前までは俺たち全然連絡してなかったよな……。直人とは同じゲームをやってるからほぼ毎日連絡してるけど、霞沢からのラ○ンは一年ぶりだと思う……。それが俺たち間に何もなかったことを証明する唯一の証拠だった。
なのに、どうして———。
「…………」
ふと昨日のことを思い出して、霞沢のラ〇ンに返事できなかった。
まだその感触が残ってるような気がして、とてもつらかった……。
「早く学校行こう……」
……
「りお! 昨日何かあったのか……? 電話にも出ないし、ラ○ンも返事なかったしな……」
「あっ、うん。昨日…………ちょっと忙しかったかも」
「お前の不在で連敗したぞ。全然ダメだった……」
「そっか……」
「次は絶対電話してくれ……」
「分かった」
つい、直人に嘘をついてしまった。
でも、それを言う必要はないから……。そして俺は二人の関係を壊すことなど絶対しない。
「あれ? 二人とも早いね〜」
「あいちゃん〜! おはよう」
「おはよう〜。直人くん! そして北川くんも〜」
「おはよう……。じゃあ、俺はちょっと……」
「どこ行くの?」
「秘密〜」
「ええ……」
昨日のこともあるし、二人がいる時にはなるべくその場を離れようとした。
あの二人は友達として本当に好きだけど、そこにいると……俺だけが浮いてるような気がする。普通に話しているのに……そのわけ分からない距離感が俺は嫌だった。この感情を嫉妬って言うかもしれない。あるいは、ずっと否定していたその感情だったり……。確かなことは、いいことばかりじゃないってことだった。
「…………」
悩みながら廊下を歩いていた俺は、いつの間にか自販機の前に立っていた。
一応飲もうか……と思ったら財布を机の中に入れたまま持ってくるのをうっかりしてしまった。教室に戻るのも面倒臭いし……、チャイムが鳴るまで外を眺めることにした。どうせ、今はやりたいこともないからな……。
「はい! これ」
「うん?」
なんで、俺の居場所が分かったんだ……? ちょっと怖いけど……。
「ねえ、ジュース飲むよね? 私がおごるから! ふふっ!」
ドヤ顔で五百円玉を見せる霞沢に、俺はどうしたらいいのか分からなかった。
直人と一緒にいたんじゃなかったのか……、どうしてここにいるんだよ。霞沢。
「いや、いい。喉渇いてないから……」
「えっ? そう……?」
「うん。じゃあ、俺先に行くから……」
「…………」
俺にできるのはその場を避けるだけ。
……
昼休み、俺は一人でお昼を食べることにした。
どうせ…あの二人は俺の前でイチャイチャするはずだからな……。
それに二人っきりの時間を作ってあげたかったのもある。
そして教室———。
「北川くん! お弁当一緒にぃ…………」
「あれ? 霞沢さん、誰か探してるの?」
「あっ、北川くんどこ行ったのかな……?」
「あ! 北川くんならさっきお弁当持って、屋上に行くのを見たけど……。二人とも本当に仲がいいね!」
「ふふっ、私たち幼馴染だからね。ありがと〜」
ぼーっとして、空を眺める。
今頃、あの二人は仲良くお弁当を食べるんだろう……。いや、こうなったら俺も彼女とか、作った方がいいかもしれない。もちろん、俺と付き合ってくれる女子なんかいないのが問題だけどな。もし、俺にも彼女ができたら……SNSで見たダブルデートとかできるかもしれないし……。夢みたいな話だけど……、いつかそんな日が来るかもしれない……と俺はそう思っていた。
そうなったら……霞沢も俺にあんなことしないよな。
それより彼氏持ちがあんなことしてもいいのかよ……。マジで分からない。
「なんか、私に文句言いたそうな顔だけど? 北川くん」
「えっ? 霞沢……どうしてここに? 直人は?」
「直人くんならさっき用事があるって言ったよ」
「お昼食べねぇのか、あいつは……」
「分からない。だから、一緒に食べたかったのに……。すぐ逃げちゃって……意地悪い!」
「別にそんなことしてないし……」
「全く……、今日どうしたの? さっきも……せっかく私がおごるって言ったのに」
「まあ……、霞沢ってさ。他に友達いないのか?」
「ちょっと! なんだよ……! その言い方!」
頬をつねる霞沢が怒り出す。
「いててて……」
「どうして、そんなこと言うの……? ひどい……。私はただ……一緒にお昼食べたかっただけなのに……」
昔も今も……、霞沢に嫌なことを言うのは無理か。
確かに……ずっと霞沢の言うことを聞いてあげたからな……。
「私のこと、避けてるんでしょ……? どうして? 私、何もやってないのに……」
「…………」
マジでそう思ってるのか……?
「もしかして、手を触ったくらいで避けたりしないよね? 北川くん……」
「…………」
答えられないりおに気づくあい。
「北川くん、手出してみ」
「手?」
「早く」
「あっ、うん……」
「ねえ、北川くんは友達の手を触るのがおかしいと思う?」
「えっ?」
「私は普通だと思うけど……」
さりげなく手のひらを合わせる二人、霞沢がこっちを見ていた。
「普通……?」
「そう。普通だよ……? こうやって……、手を握るのもね?」
「そう……か? それは普通だったのか……?」
ぎゅっと、りおの手を握るあい。
「そう、おかしくないよ? 友達同士で手を繋ぐのは普通だからね?」
「…………」
「そして……、私のラ○ンにはちゃんと返事してほしい……」
「……ごめん。今朝は忙しくて……」
「ふっ、そっか。今日だけだよ? 許してあげるのは…………」
「うん……」
もしかして、霞沢は知っていたのか。
その顔は俺がわざと返事してないのを知っている顔だった。
俺はずっと余所者だったはずなのに……。
いや、余所者のままでいいから……この状況をどうにかしたかった。これは……。
これは———。
「それより温かいね……。北川くんの手……」
「ち、違う…………」
「昔はずっとこの手離さないって私に言ってたよね……? 北川くん」
「い、いつの話なんだ。俺たちはもう高校生だぞ……」
「ふふっ♪ いいじゃん。それで私ね。今日お弁当作ってきたから……一緒に食べよう。あーん」
霞沢の料理……?
石炭っぽい目玉焼きをまだ覚えているんだけど……。
「…………えっ? 霞沢が?」
「早く、あーん」
「あーん……」
あれ? なんで、美味しいんだ……? えっ?
「ふふっ。私もずっと頑張ってきたからね〜」
「へえ……、そうなんだ」
「美味しい?」
「うん……」
一人で食べるはずだったお昼を、なぜか霞沢と一緒に食べている。
俺は……この状況をどう受け入れればいいんだろう。あれから適切な距離感を維持したかったのに。俺が距離を置くと霞沢はすぐその距離を縮めてしまうから……、何をしても無駄だった。
「もっと食べる……?」
「食べてもいい?」
「もちろん〜。食べて食べて!」
「…………」
「懐かしいね〜」
「…………」
そう、昔はずっとこうやって一緒に食べていたから……。
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