2 どうして、ここに……?②

「……そう?」

「うん。直人くんは今忙しいからね……?」

「分かった」


 やべぇ……、めっちゃ近いじゃん……。

 霞沢の顔が目の前にいる。

 てか、俺はこんな距離で霞沢と話したことあったのかな。多分……中学生になってから距離を置いていたと思う。それにしても霞沢の可愛い声と話す時に目を合わせる癖はあの時のままか……、直人のやつが羨ましいな……。あいつ毎日霞沢とイチャイチャしてたから……、俺はわけ分からない距離感を感じていた。


「北川くん……? どうしたの?」

「うん? いや、なんでもない。てか、霞沢は友達に会いにきたのか? そこから来るのはけっこう距離があると思うけど……」

「うん? 直人くんに聞いてないの? 私たち引っ越してきたけど……」

「えっ? いつ?」

「えっと……、二日前かな? えっ? 本当に聞いてないの? 二人とも……もしかして仲が悪い……?」


 昨日も一緒にゲームをやってたから……、仲が悪いとは言えないな。

 それより霞沢が「たち」って言ったから直人もここにきていることになるけど、あいつ何も言ってくれなかったし……。まあ……、直人にもそれなりの理由があるんだろう。深く考えても頭が痛くなるだけだから、聞き流すことにした。


「あの頃と一緒……」

「そう? それより、私ね。先まで部屋片付けてたから、めっちゃ疲れたよ……」

「そっか、予定がないならうちでゆっくりしてもいいよ。でも……、夜になったらすぐ帰ってくれ」

「どうして……?」

「どうしてって、霞沢は……その…直人の彼女だろ?」

「うん……?」

「いや……、うんじゃなくて。こうするのが普通だと思わないのか……?」

「あいにはよく分かりません〜」

「全く……、霞沢……」

「ねえ、北川くん!」

「どうした?」


 ベットに座って、隣席をポンポンと叩く霞沢。

 今度は何をするつもりだ……。


「ちょっとだけでもいいから、昔に戻ってみよう」

「えっ……? なんの話……?」

「私に膝枕してくれない? 小学生の頃にはよくやってくれたじゃん」

「いいから、一人で寝ろ」

「…………」


 もう霞沢の話に巻き込まれたくなかった俺は、それを断るしかなかった。

 いくら幼馴染だったとしても、一線を越えるような行為は慎むべきだ。直人に悪いし、俺も……この関係を維持するためには仕方がないと思う。普通ならそれくらいすぐ分かるんだろう……? 霞沢も、俺も……、今はただの友達だから。


 なのに———。


「……霞沢……?」

「うん?」

「えっと……、腕……離してくれない?」

「嫌だけど?」


 どうして、俺の腕を抱きしめるんだ……?

 からかうのはほどほどにしてくれ、これ以上は本当にやばいぞ……。

 いけない、そばから霞沢の温もりが感じられる。


「ちょっとだけだよ? そんなに嫌なの……? 私のこと」

「いや、別に……嫌じゃないけど」

「じゃあ……、やってくれない? 膝枕! ふふっ」


 なんで、俺の前でそんな風に笑うんだ……?

 小学生の頃と同じ笑顔……、ままごとをしていた時のその笑顔だった。今日は本当に気をつけないといけない。今の霞沢は俺が知っているあの時の霞沢と少し違うからどんなことが起こるのか分からないし、それに問題は俺にもあるからな……。


 変だ……。


「ふふっ……。わぁ……、そうそう。この景色だよ。あの頃は……こうやって北川くんが私の頭を撫でてくれたよね?」


 さりげなく俺の手を握る霞沢、指先が震えていた。


「でも、子守歌は下手くそだったよね……。ぷっ」

「そんなことをまだ覚えてんのか、いつの話なんだ……」

「これが……いいからね。私はずっと———」

「うん?」

「…………」

「か、霞沢?」


 ずっと……なんだ?

 はあ? そ、そこで寝落ちするのか……? あり得ない! またからかわれたのかよ……! 俺は……。


 精神的に疲れて、すぐため息が出てしまう。


「…………本当に、嵐みたいな人だな。霞沢は……」


 俺の袖を掴んで、すやすやと寝ている霞沢はあの時と一緒だった。

 ままごとは嫌だったけど、霞沢がずっとやりたいって言ってたからな……。他にもままごとをしたがる女の子や霞沢に付き纏う男の子がたくさんいたけど、俺じゃないとダメって言うから……。幼馴染として、やるしかなかった。


「…………」

「…………あい」


 今は寝てるから、久しぶりに霞沢のことを下の名前で呼んでみた。

 てか、幼い頃にはずっとそう呼んでたよな。霞沢も俺のことを「りおくん」って呼んでくれたから。でも、今の霞沢は直人の彼女だから……俺たちの間には見えない壁があった。そして幼馴染だった俺は、二人が付き合ってからどんどん距離感を感じるようになる。あんまり思い出したくないことだけど……。


「…………ううん」


 寝ている霞沢を見て、ふと頭を撫でてあげた時を思い出す。

 それくらいはやってもいいかな……?

 でも、それに気づいた時はもう彼女の頭を撫でた後だった。俺は友達の彼女に一体何をやってるんだろう……。早く、直人に連れて行けってラ○ンをしないと……。


 てか、スマホ遠いし……届かないな。


「姫だよ。私…………」

「ぷっ……。あの頃の夢を見てるのか」


 そういえば、幼稚園、小学校、中学校……、そして高校で三ヶ月くらいか。

 ずっと霞沢と一緒だったよな。

 そこを離れる時はもう二人に会えないから悲しかったけど、まさかあの二人がこっちに引っ越ししてくるなんて……不思議だった。


「改めてよろしく。霞沢…………」

「…………」


 寝たふりをしていたあいはぎゅっとりおの袖を掴む。

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