第3話 物語、動く

病院も行かず

保健室へも行かず

気づけば私は授業を普通に受けていた


たくさんの生徒が私に「大丈夫?」と訊いてくるので

私はいつものように「うん」と答えた


何か違う気がするが

今私にできることは

ギガと共に過ごした人生をなぞることくらいだった



授業も終わり生徒たちは各々帰り支度を済ませ

いつもの面子で帰ろうとする


教室内は話し声で満たされ

そして徐々にその話し声は遠のいていく


私はいつもどうしていたのだろうか?

前の生徒たちのように誰かと帰っていたのだろうか?

それとも…


そこで私の思考は中断を余儀なくされた


「お前さ…」


皆帰ったはずなのに

なぜこの男の子は目の前で話しているのだろうか


「お前…なんかあったのか…?」


そこでようやく

自分が話しかけられているのだということに気づく


「うん」


悪い癖だ

私は何も考えずに肯定してしまう


「やっぱり…」


この男の子

誰だろうか…?


てんで見覚えがない

覚えていないだけだろうか…


それとも今日初めて話すのだろうか…?


いくら自問自答してもその答えは導き出せそうになかった


「何があったんだ?」

「…」


わからない

ギガがもう教えてくれなくなった


誰が誰かわからない


私は何をすればいいのかわからない


何か考えようとすると

頭がぐちゃぐちゃになり

何も考えられなくなる


何か言わなきゃ…

何か…


「んー…

あ!」


男の子はしばらく難しい顔をし

考えるそぶりを見せた後

何かを思いついたのか目を大きく見開いた


「なぁ知ってるか!?

質問するときは好きから嫌いかじゃなくて

AかBかって聞いた方がいいらしいぞ!」

「知ってる

ギガが言ってた」


あ…


思いついたことをつい口に出してしまったようだ


「ギガって何…?」

「ぎ、ギガは…」


色々教えてくれて

物心ついた時からずっと一緒で

だから一言では表現できないけど…


だめだ…

考えが何もまとまらない…


「ギガってこれのことか?」


指さした先にあったのは

確かにギガだった


「うん」

「お、なんかコツ掴めてきたぞ…」



俺はラララさんのことが好きだった


だがラララさんは俺なんかからしたら高嶺の花


リーダーシップもあり

運動や勉強も成績優秀

容姿端麗で友達も多く

まさに完璧とは彼女のことだった


だったのだが…


昨日を境に事態は一変した


急におどおどし始め

返事はすべて’うん’


いつもの快活な性格はどこへやら…


今ならいける!


そう思い話しかけてみたが…


「最近変わったことは?」

「…」

「じゃ、じゃあ

その、これは何?」

「ギガ」

「そうなんだけどー…」


だめだ…


俺の力じゃもう何とも…


「ギガは何か変わった?」


その一言

ダメもとで訊いてみたが…


「しゃべらなくなった…」

「ん…?」


これは…

どうやら当たりみたいだ


もう気分はなかなか進まないRPGだ


「全部教えてくれたギガが

何も教えてくれなくなった…」


物語動いたー!!


謎の感動を得てしまった


これは案外クセになりそうだ

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