第18話


「──今日からこのララは俺の花嫁となる。丁重に扱うように」

 シャルルが低くそう言うと、ざわりと空気がどよめいだ。彼の隣にいる人間を見上げる使用人たちの表情は歓迎してはいない。

 ララは不安そうに目を伏せる。

「もしもララに何かあれば、ここにいる全員──どうなるか分かるな?命をかけて彼女を守れ」

 ギラリと光った仮面の奥。使用人たちは顔を青ざめ、ブルブルと震えていた。

 シャルルの発した言葉に驚いたララは彼の腕に手を添えて小さく抗議する。

「シャルル様、そんなこと言ってはだめです……!皆さまの大切な命を、私のために投げ出すようなことはさせないでください!」

 頬を膨らませたララにシャルルは身体を震わせる。

 使用人たちはララがシャルルに口答えをしたことで怒りを買ったのでは……と息を飲む。

「ララ……そんなかわいい顔を俺以外に見せたらダメ」

 ララの頬を両手で包み込んでそう言ったシャルルは、ぽかんとする使用人たちに「見るな」と鋭い視線を投げた。

(──魔王陛下はどうしてしまったんだ?)

 その場にいた使用人全員が同じことを思ったという。

 冷酷で寡黙な魔王陛下が、一人のか弱い人間の少女に心酔している。そんな異様な光景を見て再び騒めいた。

「人間であるからとララを虐げることは俺が許さない。いいな」

 ララをその胸に閉じ込めて、表情を見せないように囲う魔王に使用人たちは揃って頭を下げた。その命令に逆らおうとする者はいない。内心どう思っていたとしても──この国の王であり、自分たちの主人はその男しかいないのだから。

 そして次に彼らが視線を送ったのは、シャルルに大事そうに抱きしめられているララだった。もぞもぞと主人の腕から顔を出したララは使用人たちに眉を下げ、ふわりと笑いかける。

(──ごめんなさい)

 声を発さず唇の動きだけで使用人たちに向けて伝えた。それが何を意味するのかよくは分からなったが、その優しく愛らしい笑顔にもれなく全員が顔を赤らめたのは言うまでもない。


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