第17話


「どんなに強く美しい魔族の女性を紹介しても興味がなかったのに──」

 さすがは魔王、縁談も豊富に舞い込むらしい。ラウルは特にシャルルの結婚に関しては敏感だった。

「俺にはララがいるからだ」

 鼻息荒く即答したシャルルがララを包み込む。その腕の中でララは素朴な疑問を抱いた。

「魔王陛下ですから、やはり一夫多妻なのですか?」

 彼女は何気なく問いかけただけだったが、シャルルは衝撃を受けたようだ。ララの肩を掴んで優しく揺さぶる。

「違う。歴代の魔王のことは知らないけど俺にはララだけ」

 仮面越しでも分かる潤んだ目。ララは慌てて「シャルル様、わかりましたから!」と宥めた。

 ラウルが大きく溜息をつく。

「陛下、民の反発は免れませんよ」

「……わかっている」

 苦い顔をしている彼をシャルルは真っ直ぐ見据えた。しばらく睨み合った後、ラウルは再び息を吐く。

「……何を言っても無駄ですね、きっと」

「ああ」

 諦めたようにそう言った後、ララに視線を向けた。

「──ララ様」

 名前を呼ばれ、ララは背筋を伸ばして小さな声で返事をする。

「私はあなたを認めません」

「ラウル!」

 シャルルが眉間に皺を寄せて嗜めるが、その鋭い視線は変わらない。ララが困ったように眉を下げた。

「……その愛らしさは認めますが!陛下の花嫁であることを認めるわけにはいきませんから!!」

 ラウルはグゥッと胸を押さえ、その可愛らしさに耐えているが、当の本人は分かっていない。

「……では、認めてもらえるように頑張りますね」

 眉は下がったままふにゃりと笑ったララに、シャルルとラウルは膝から崩れ落ちていた。

「ララ……どうしてそんなにかわいいの」

「え?」

 ララはおろおろと崩れ落ちた二人を交互に見る。

「そんな風に笑うのは俺の前だけにして。危険だから」

 復活したシャルルがそっとララの頬を撫で、優しくいい聞かせた。

「うーん、よく分かりませんが、分かりました!」

 にっこりと笑って頷いた彼女にシャルルはぽわん、と柔らかな空気を醸し出す。

「かわいい」

 きゅっと抱きしめて、頬ずりをするシャルル。

 部下である四人は顔を見合わせて苦笑した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る