第15話


 豪華な執務室に足を踏み入れると、シャルルにフカフカのソファに促され、ララが座る。

 するとすぐに執務室の扉がノックされた。シャルルが直々に扉のもとへ向かい、少しだけ開く。その隙間からは数人の話し声が聞こえた。

「大切な客人だ。色目を使えば殺すぞ」

 シャルルが“魔王”らしい低い声で言うと、扉の向こうから様々な反応が返ってくる。

「色目って……相手は人間ですよね、陛下」

「人間かぁ。僕は嫌いじゃないけど。弱いものは守ってあげたくなるもんね?」

「俺あんま人間見たことねーんだよな。ちょっと楽しみ!」

 やはり人間はあまり良い印象を持たれていないのだとララは実感する。少なくとも、同じ立場だとは思われていない。

「いくら可愛らしいと言えど、所詮は人間……そもそも人間に対して愛らしいなどと感じることが謎ですが──」

 最後に聞こえた声が途切れ、シャルルの背中で見えなかった人たちが部屋に入ってくる。

「──天使ですか?」

「……はい?」

 最初に目が合ったのは眼鏡をかけた頭の良さそうな人。彼が途切れた声の主だろう。

 その人が呆気に取られたララをじっと見つめた。彼の発した言葉にシャルルがムッとする。

「天使?天界になんて渡さない」

 ふいっと拗ねたよう顔を背けた後、ララの隣に座って腰を引き寄せた。

 その様子を見て部屋に入ってきた四人は驚いたように目を見開く。そしてララの顔をまじまじと見つめて──。

「うっわ!可愛い!魔王様はいいなあ〜」

「そうだろ」

 にかっと笑う男の子。ララとあまり歳は変わらないだろうか。あくまで見た目の年齢であるが。

 魔族は人間よりも長く生きる分、見た目ではあまり年齢が分からないのだ。

 その少年の隣にいた男性がグッと距離を詰めて見つめたためララは思わず仰け反った。

「本当だ、可愛いね。食べちゃいたいくらい」

「お前は近付くな。命令」

 シャルルほどではないものの、超絶美形なその人が口角を上げて笑む。ララの隣に座る魔王は目の前の男を弾きとばした。その綺麗な男は「ひどーい!」と言って飄々としていたけれど。

 最後の一人──三人よりも少し後ろで成り行きを見守っていた少年は無表情でぼーっと立っている。彼もまた、ララと変わらない年齢に見えた。

 シャルルが彼にコメントを求めれば

「……興味ないっす」

 とそっけなく言い放つ。それはそれで気に食わなかったらしく、シャルルの眉がピクリと動いた。

「どうして?かわいいだろ」

 恥ずかしいことを平気で言ってのけるシャルルにララは目を伏せてしまう。少年はため息をついた後仕方ないとばかりに口を開いた。

「……まあ、普通に可愛いんじゃないですか」

 ララが少年を不憫に思っていると、彼が肯定したと同時にシャルルがガバッと立ち上がる。

「ダメだ」

「どっちだよ!!」

 そう噛み付きあう彼らにララは戸惑いの視線を送るしかなかった。

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