第14話
ララが身だしなみを整えたのを見計らったかのようにシャルルが部屋へやって来る。
その姿は既に魔王そのもので、あの恐ろしい仮面にその美しい顔を隠してしまっていた。
それでも──幸せそうなオーラは仮面から溢れ出ている様子だったけれど。
「あの……シャルル様?」
「どうしたの」
ララは差し伸べてくれた手の平に自分の手を乗せる。エスコートしてもらいながら歩き出すと、彼女は尋ねた。
「無礼を承知で、お伺いしても?」
「ララは俺に何をしてもいいよ。俺が君に怒ることはないから」
浮き足立つシャルルの優しい声色にホッと息をついて再び口を開く。
「何故、仮面をつけていらっしゃるのですか?」
その問いにピタリと動きを止めてしまった彼を見て、まずいと思うが──彼は怒るどころか落ち込んだように少し項垂れていた。
「……俺の顔は魔族に相応しくないから」
──相応しくない?
首を傾げるララに「かわいい……」と無表情のまま胸を押さえたシャルルだったが、すぐに咳払いをして話を元に戻す。
「幼い頃からずっと、俺の顔は魔族としての威厳がなく、他者に畏怖を与えられないものだと言われ続けていた」
その説明を受けて、ララはやけに納得してしまった。確かに彼は魔族のイメージとはかけ離れた美男子だ。天使や神のような他者を魅了する美貌は──魔族の求める“威厳”には当てはまらないのかもしれない。
「……ララも、この顔が嫌い?」
考え込んでいたララを見て何か悪い想像をしたのか、目を潤ませながらそう聞いた。
「……私は美しいと思います」
「美しい……?」
確かに魔王らしくはない顔立ちではあると思う。だがそれが自分の好みかどうか聞かれると──。
(……めちゃくちゃ好きなタイプです)
ララの言葉に喜ぶ……というよりは、不思議そうにしているシャルル。
「はい!そしてとても可愛らしいです」
今度は彼が考え込んだ。男性にとって“かわいい”は褒め言葉ではなかったかもしれない。失言だったかな……と言い直そうとするも。
「かわいい……ララは可愛いものが好き?」
「え……はい」
「本当?」
その前に、キラキラとした瞳がララに降りかかってくる。彼女が頷いたと同時にシャルルの背から花が咲いた。
「ララが好きだと言ってくれるなら、この顔に感謝しなきゃ」
仮面をずらしてふわりと微笑んだシャルルは本当に幸せそうだ。ララの顔を蕩けたような目で覗き込む。
「でもララは鏡をきちんと見たほうがいい」
「え?」
「ララ以上にかわいいものなんてない」
長い指先がララの髪を掬い、キスを落とす。真っ赤になるララにクスッと笑ってから再び歩き出した。今度は彼女の腰に手を添えて。
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