第13話


 カーテンにより光が遮断された薄暗い室内でララは目を覚ます。隣には変わらずシャルルがいて、その胸元から視線を上げると──。

「おはよう、ララ」

 目をキラキラさせる美青年。その至近距離での破壊力に再び意識を失いかけたが、なんとか踏みとどまった。

「おはようございます、シャルル様」

 ララがそう返すと、シャルルは顔を紅潮させる。

「ああ……夢じゃなくてよかった……」

 だらしなく顔を緩めて、両手で口を押さえた。

「今日もかわいい」

 歯の浮くようなセリフに今度はララが両手で顔を覆う。

(そのうち、キュン死するかもしれない……)

 不思議そうな顔をするシャルルが指の隙間から見えた。

 コンコンとドアがノックされ、シャルルが「何だ?」と低い声で返事をする。

「陛下、こちらでしたか。そろそろ公務のご準備を」

「……わかっている。下がれ」

 大きなため息を吐いてそう言うと、少し上げていた頭をパタンと布団に下ろしてララに視線を送った。

「今日はララを独り占めしていたいのに」

 唇を尖らせて拗ねたようにララの髪を指に絡める。

「シャルル様はこれからお仕事ですか?」

「うん……あ、そうだ」

 何かを思いついたような表情をすると、今度はララの手を取ってニコリと笑った。

「ララも執務室においで。他の人を紹介するから」

 ララが曖昧に頷けば、そうと決まれば……!と起き上がってベッドから降りる。

 ベッドサイドに置いてあったベルを鳴らすと、すぐに扉がノックされメイドが入ってきた。

 シャルルはその侍女を見下ろし、昨夜のように「丁重に扱え」と念押しして出て行った。扉が閉まる直前、真顔のまま思い切り手を振る姿が見えて、ララはクスリと笑ってしまう。


「本日よりララ様の専属として身の回りのお世話をさせていただきます、マリーと申します」

 ララの目の前で一礼したそのメイドは目を伏せたまま、彼女を見ようとはしなかった。人間への差別的な思想は強く根付いているのだろう。それは人間領でも同じだったからララにもよく分かる。

「……あの」

「……何でしょうか」

「私なんかのお世話係だなんて……嫌ではないですか?」

 ララの発した言葉にピクリと反応を見せた。チラリと一瞬だけ視線を向ける。

「……命令ですから」

 それは“仕方がなく従っている”と受け取れるものだ。悪びれる様子もなくそう言ったメイドを咎める資格もないララは苦笑するだけだった。

「……では、自分の身の回りのことは自分でしますので、私が呼ぶまでは他のお仕事をしていてください」

「……ですが」

「これが私の命令です。シャルル様に何か言われたらそう言ってください」

 嫌がる従者を無理やり従わせるほどララは悪女ではない。元々の屋敷でも従者からも見下されていた身だ。自分のことは一通り自分でできる。しなければならなかったのだから。

「ごめんなさい、私のせいで」

 緩く微笑めば、その人は怪訝そうにした後、一礼して静かに退室した。

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