第12話
「──どうしよう」
シャルルは一人悶々としていた。
(眠れない……)
照れていたのは最初だけで、腕の中の少女はスヤスヤと眠っている。
男としてあまり意識されていないのか、と思えば落ち込みたくなるが、今はそれどころではない。
少女──ララは無意識のうちにシャルルの胸元へ顔を擦り付ける。そんな些細な仕草だけで、彼の胸は息もし辛いほどにときめくのだ。
「まぁ、いいか……」
ララが起きない程度に、優しく髪や頬、目元に触れる。
寝顔を見ているだけなのに、こうも飽きない。ずっと眺めていられる。
報告を受けていたよりもずっと柔らかい表情の彼女に、シャルルは安堵していた。
──ララのことは密かに調査をさせていた。
念願叶って彼女を迎えに行ける準備が整った時、身辺の調査結果を見てシャルルは怒りを覚えた。
調べさせたのは『もし彼女に恋人がいたら……』という悪い想像が拭えなかったから。
最初から魔王の命令としてララを寄越せと人間領に送りつけるつもりだったが、彼女が心から愛する人がいて、幸せな生活を送っていたとしたら。諦めるつもりだった。本当にそうしたかどうかは別として。
しかし、届いた結果は恋人がどうこうではない。あまりにも腹立たしいもので。
血の繋がった家族であるはずの奴らが、ララを虐げている。冷遇を受けて、笑顔を見せることも涙を流すことも辞めた……そんな彼女の様子が文字を通して伝わってきた時、シャルルはあまりの怒りで執務室を半壊させたという。
「こんなにかわいいのに。今すぐにでも殺してやりたいけど」
物騒な言葉を吐いて、シャルルはハッと口を手で押さえる。
「……もしも、ララが少しでも家族を大切に思っていたとしたらいけない」
ぐっすりと眠る少女を確認して、まただらしなく口を緩めた。そっとララの身体に腕を回すと彼女の額に自分の頬を擦り寄せる。
ふと、シャルルの目が細められた。
「ララが殺してもいいと思っていたら、その時は──」
赤い瞳が、遠くを見てギラリと光を宿す。
それはまさしく“魔王”と呼ぶに相応しい──残虐さを孕んだ顔であった。
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