第11話


 魔王というのは、血縁ではなく実力で選ばれると本で読んだことがある。家柄や血筋は関係なく、魔力の強い者が王となる。挑戦者が現魔王を倒せば、その者が次の魔王に即位する……と。

 その話が本当ならば、目の前の男はこの国の魔族の中で誰よりも強いということになる。

 あまりにもその話とシャルルが結びつかなくて、似合わないな、と思う。

「……では、そばにいてくれますか?」

 私がシャルルの顔を覗き込むようにしてみると、彼は目を丸くした。そして私の頬を冷たい指先でなぞる。

「ララの頼みを断るわけない」

 私も彼の頬に手をあてる。指先だけじゃなくて頬も冷たい。

 嬉しそうな顔をして、私を軽々と横抱きにするとベッドに優しく降ろされた。シャルルは隣で横になると私の髪を撫でる。そのまま髪に口付けを落とされた。

「ララ……いい匂い……」

「シャンプーのおかげですね」

「これはララの香り。甘くて優しい」

 腰と後頭部に手が回ったかと思えばぐっと引き寄せられる。さっきまでの恥ずかしそうな姿から一転、突然の積極的な行動にぎょっとした。

「幸せ……」

 私の頭のてっぺんにスリスリと頬を寄せるシャルル。小動物に対する愛情表現のようで擽ったい。

 明日あまりにも恥ずかしくて手のひらで顔を覆うけれど、シャルルはそれを見て真顔で言い放った。

「かわいい」

 そっと手を退けられて、視線を上げれば間近にシャルルの顔がある。当たり前だけれど。

「──大切なララ、明日はもっと幸せでいて」

“はやく俺だけのものになってね”

 そう耳元で囁いた彼の瞳に映る私は、あまりにも表情豊かだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る