第7話


 ハッと息を呑む音がする。ぶるっと震えたかと思うと、小刻みに揺れる指先が私の後頭部と腰に回った。

「ああ、やっと」

 抱きしめられたことなどない私でも、分かる。なんて大切そうに、愛おしそうに包み込むのだろう。

「ララ、温かい……」

 思い切り抱きしめたいのに、壊さないように細心の注意を払っている──そんな感情

 が触れたところから伝わってくる。

「……私を食べるのでは、ないのですか?」

 囁くようにずっと抱いていた疑問をぶつけると、魔王は慌てたように私の肩を掴んで数センチ引き離した。

「ララ……気が早い……。初夜は、正式に婚姻を結んでから……。君が望むのなら、構わないけど……」

「なんの話ですか!?」

 頬をほんのりと赤らめ、そう言った魔王にこちらまで照れてしまう。

 婚姻?初夜?

 言葉の意味は知っているのに、私が知っているものと今の状況とが結びつかなくて混乱する。

「わ、私は生贄としてここに来たのですよね?」

 私がそう言うと、魔王は数秒考えた後にさっきとは打って変わってサーッと青ざめていく。

 そしてその直後、その綺麗な瞳からポロリと涙が溢れた。

「え!?」

 ポロポロと流れる涙とキュッと結ばれた唇。本当に魔王なのか疑わしいほど純粋なその人に私はギョッとした。

「違う……信じて」

 今にも崩れ落ちてしまいそうなほど弱々しく見える魔王を宥めるように、私は彼の腕をさすった。

「ララ、君は俺の花嫁。生贄なんて、とんでもない……」

 私の両頬を掌で包み込んで顔を近付ける。整いすぎた顔が近くにあって失神してしまいそうだ。

「……ん?」

 焦って聞き逃してしまいそうになったが、またしても意味が分からない言葉が頭を駆け抜けていった。

「は、花嫁……?」

 初耳だ。生贄としてここへ来たはずなのに、これでは真逆の立場ではないか。


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