第4話
魔王の城。
そう呼ぶに相応しい外観に私は背筋が凍るけれど、これが自分の運命だったと思うことにした。
馬車を降りる時には、手首を縛られている私の腕を魔王の従者であろう者が引いてくれた。──手首を縛って逃げられないようにしたのは魔族ではなく人間なのだから、なんだかおかしな話だと思う。
私が地面に足をつけた瞬間、コツコツと靴音が響いた。ぱっと正面に目を向けると、一際オーラのある者がたくさんの従者を引き連れてこちらにやってくる。仮面を着けていてよく分からないが、きっとあれが魔王だと悟る。
私の周りにいた魔族が一斉に平伏したからだ。
「──よく来たな、歓迎しよう」
低い声が重くのしかかる。それだけでゾクっとした。
仮面の下の目が、挨拶もできずにいる私の縛られた手首を捉えると鋭く細められたのがわかる。
「──何故、手首を縛っている?」
先程よりも更に威圧感が増した声に、周りの温度が一気に下がったような気になる。
私の隣にいた従者が慌てて手首の縄を解いたが、魔王の機嫌は直らないようだ。
(生贄は傷一つつけずに綺麗なまま食べたいのかな?)
そんなことを思っていると、少しだけ赤くなった手首に魔王の長い指が触れる。
「──こちらへ」
乱暴な物言いとは裏腹に、大きな手が優しく私の手を引いた。私はされるがまま、その人について行く。
視界いっぱいに広がる大きな扉の前まで来ると、魔王は私の手を離した。
「丁重に扱え。傷一つつけることは許さん」
そう言って魔族の女性に私を預ける。扉の先は風呂場だった。薔薇の花びらが浮かぶ湯船に半ば強制的に入れられると、丁寧に身体を洗われていく。その間も、何故か顔に掛かる布は取り払われなかった。
(料理する前に野菜を洗うのと同じ感覚なのかな……)
なんだか拍子抜けだった。少なからず抱いていた緊張も、もうすでに意味を成さなくて。
されるがままに体を綺麗にし、上等な服やアクセサリーで飾り付けられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます