第2話
少女──ララの腕を引き、魔王は長い廊下を進む。その速度は彼女に合わせてかゆっくりとしたものだった。そしてそのまま一際大きな扉を開き少女を室内へと引き込む。
ガチャン、と扉が閉まる音と同時にララの肩が掴まれた。
「──ララ、知らない人を勝手に城へ入れちゃダメ。何もされていない?」
ララの顔を覗き込む仮面。近くで見える瞳は心配そうに揺れている。
「大丈夫ですよ〜」
柔らかく微笑んだララにホッと胸を撫で下ろすと、魔王──シャルルは自らの仮面を取り外した。
そこから現れたのは美しく整った顔だった。魔族でありながらもお伽話の王子様の様な秀麗さには毎度驚かされる。優しい表情で口調も柔らかくララに問いかけるシャルルは先程とは全く違う空気を纏っていた。
「触れられたりはしてない?」
「あ、それは……」
ララが言い淀むとピクリとシャルルの眉が吊り上がった。スッと冷めた表情は魔王の面影が宿る。
「あの勇者……手首から切り取ってやる……」
「ダメですっ」
ぽん、とシャルルの腕を軽くたたくとララは唇を尖らせた。そんな彼女の様子を見て、シャルルは柔らかく微笑んだ。
「ララ……かわいい」
肩を掴んでいた手を腰に回してララを引き寄せる。まるで宝物を扱うように丁寧な手つきにララは苦笑した。
「魔王様、お疲れではありませんか?」
「大丈夫。ララを見たら疲れなんてどこかに行く」
即答したシャルルにくすりと笑うと、ララは諦めて身を委ねる。
「勇者様たちは人間領へ飛ばしてくださったのですか?」
何気なく問い掛ければシャルルは顔を青くした。
「まさか……あの勇者に惚れた……?」
「え?」
「俺以外を気にかけないで、ララ。」
うるうると涙を浮かべた彼を見れば、魔王だとは誰も思わないだろう。
シャルルは細く長い指先をララの頬に優しく滑らせると、ちょんと鼻先をつついた。
「ララは誰にも取られたくない……」
世の中を恐怖に陥れる最強最悪の魔王は、噂とは全く違う一面を持っている。
「今日も俺の奥さんはかわいい」
──魔王様は、重度の愛妻家でした。
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