魔王様は愛妻家
向日ぽど
Prologue
第1話
禍々しい魔力のオーラが放たれる立派な城を前に、四人の少年少女が息を飲んで佇んでいた。その内のリーダーのような少年が息を吸い込み、声を張り上げる。
「魔王!!出てこい!!」
あたりに声が木霊すると、しばらくして城の扉がギーッと不気味な音を立ててゆっくりと開いた。
「攫った女性たちを返せ──え?」
開いた扉の隙間から現れた人影に向かってそう告げるが、彼の言葉はすぐに途切れて間抜けなものへと変わる。
「──いらっしゃいませ〜、勇者様」
顔を覗かせたのは、眩いばかりの笑顔と鈴の鳴るような声の持ち主──この世のものとは思えないほどの美しい少女だった。
「え……あの……」
自他共に認める“勇者”一行は開いた口が塞がらない。慌てふためく少年たちに、少女はクスッと笑う。その仕草すら麗しくて、もれなく全員が頬を染めた。
「魔王様は今、不在なんです〜。どうぞ、中でお待ちください」
ふわふわとした口調に促されるまま城内へと足を進めた勇者たちは応接間へと通される。
「差し支えなければ、私がご用件をお伺いしましょうか?」
ふかふかのソファに座る勇者たちの向かい側に少女は座った。勇者本人は先ほどの威勢は削ぎ取られている。少女の申し出にハッとすると、その白く細い手を取った。
「もう安心です!俺たちと帰りましょう!!あなたもここへ監禁されているのでしょう!?」
険しい顔をしながらそう詰め寄る少年。その剣幕に少女は驚いた後、眉を下げてゆっくりと首を横に振った。
「……いいえ、ここには私自身の意思で留まってるので」
そう言うと、少年は困惑した様に眉を下げる。何か事情があるのか、弱みでも握られているのかと何度も問うが、その度に少女は首を横に振った。勇者一行の表情が疑問に染められていく。
──その時、城を包む禍々しいオーラが一層強くなり、勇者たちにのしかかる。
「──客か?」
特別低く貫禄のある声、という訳ではない。しかし扉が開き、聞こえてきたあまりにも重々しい声に勇者たちは冷や汗を流す。身動き一つでもすれば瞬時に首が飛びそうな空気に誰一人動けない。しかしそんな中でも少女はパッと立ち上がって扉へと駆け寄った。
「魔王様、お帰りなさいませ〜」
姿を現したのは仮面を着けたすらりと背の高い男。軽めの鎧やマント、纏うその全てが真っ黒なその人──人かどうかは定かではないが──は、少女を一瞥すると勇者たちを見下ろす。仮面から覗く瞳は紅く妖しく輝いている。
「俺はこの城の主だ」
城の主──それが意味するのはその男がまさしく勇者たちの探していた“魔王”であること。ゴクリと唾を飲んだ勇者だったが、それでも勇気を振り絞って口を開いた。
「俺たちは、お前を倒すために来た……!」
その言葉に微塵も動揺を見せない。少女の肩を押して下がらせると二歩ほど進み出た。
「……それで、何故この者と茶を飲んでいる?」
怪訝そうな声色に勇者たちが一斉に立ち上がった。
「この人は生贄としてお前に差し出された女性だ!お前を倒して連れて帰る!!」
「ほう……」
目を細めた魔王が少女の手首を掴むとその身体を引き寄せる。そして勇者たちに向かって小さく囁いた。
「これは俺のものだ」
挑発され頭に血が上った勇者が剣を取り出す。魔王の腕の中にいる少女が慌てた様に肩を震わせれば、魔王はやはり動じることなく手を挙げる。
「俺と戦いたいのならば、まずは騎士団を倒してから来い」
パチンと指を鳴らすと勇者一行は城の外へと瞬間移動させられることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます