第77話 ダンジョンの最難関

「そろそろ行くか」


「だね、これ以上浸かってたら足ふやけてなくなりそう」


足湯から出て足を拭くと、靴を履いて俺達は移動を始める。

ガクガクだった足は、足湯のおかげで少しだが回復した。

ここからお寺まですぐ着く距離なのだが……


「すごい階段だね」


「登りたくないけど、行くしかない」


お寺に行くまでの道筋に待ち構えているのは、入口の石碑の前にそびえ立つ急勾配の階段。

ここを登らなくてはお寺には到着しない。


「足湯に入ったのはまさかこの為?」


「当たり前だ。あんなガクガクな足でこれを登れると思うか?」


「……確かに」


と、双葉は苦笑する。

ホテルから直行していたら、階段の途中で俺の足動かなくなっていただろう。まぁ普通に足湯に入りたかったって理由もあるけど。


「とりあえず、進まないことには始まらないぞ」


「ダンジョンの最難関ってとこだね」


俺達は顔を合わせると、一本ずつ階段を登り始める。

一段一段が高く、足を上げるだけでも一苦労。温泉半分のも登りきらない内に、俺の足は悲鳴を上げていた。温泉だけでは足の疲れは芯まで取れていなかったようだ。


「お前はなんで軽々登れるんだよ」


俺の遥か先にいる双葉。

スキップするかの如く、軽々しく階段を登っていた。


やはり人間ではない。

運動量も、休憩した時間も全て俺と同じはずなのに。息切れすらしてないなんでどう考えてもおかしい。


「私先に上まで行ってるから可児くんはゆっくり来ていいからねぇ~!」


後ろを振り向き、手を振りながら言うと、そのまま階段をダッシュする双葉。

その背中を追いかけようとするが、足が前へ進もうとしない。


一段ずつ、膝に手を付きながらも着実に登っていく俺。

数分後、千鳥足の俺は息を切らしながらも階段を登り終えた。


「どうだ……いい所だろ……ここ」


お寺の本堂を眺めている双葉に、俺は後ろから声を掛ける。


「すごいねここ! なんか右側に五重塔みたいのもあるし、湯畑を一望できるいい眺め! 夜に身に来たら幻想的なんだろうなぁ」


「夜景は……また今度来た……時な」


「それで? 可児くんはこの景色を私に見せたいだけでここに連れてきたわけじゃないでしょ?」


「まぁな」


「てか大丈夫? 息切れ凄くない?」


「運動不足を舐めたらいけないぞ……軽く死ねるんだからこの運動量は……」


「運動って……ただ階段登っただけじゃん」


心配そうに、双葉は俺の背中を撫でる。

階段の登り降りも立派な運動だ。運動部の人だって雨の日は階段ダッシュをしてるじゃないか。


普段、運動しない俺からしたらこれもトレーニングの一環でしかない。


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