第78話 私は神に好かれてるからね

 深呼吸をして息を整え、まともに喋れるようになると、


「なんでここに連れてきたかは簡単だ。ご利益が俺達にピッタリだからだよ」


 先程の質問に答える。


「へぇ~、どんなご利益があるの?」


「何かに再挑戦したい人とかにご利益があるお寺なんだ」


「ホントだ。私達にピッタリ」


「だろ? よく調べてるだろ」


「私、神様頼りとかあんまりしたくないんだよねぇ。自分でやり遂げたいものは特に」


「初詣の時に懇願してたのに?」


「あれは……可児くんとのことをお願いしたからいいの! 神様にそこは見守っててもらわないと」


「恋愛は神様に頼っていいんだ……」


 違いは分からないが、双葉にとっては何かが決定的に違うのだろう。


「せっかく来たんだし、お参りくらいはしていこうよ」


「俺は神様にしっかりとお願いしておくぞ? 後々後悔したくないからな」


 手を繋ぎながら、ご神前へと向かう。

 旅行シーズンでもないことから、このお寺には俺達以外に誰一人いない。

 これは神様も願い事を聞いてくれそうだ。


 賽銭箱の前に着くと、財布から五円玉を取り出し、賽銭箱へと投げ入れる。


「可児くんは五円玉でいいの?」


 隣で財布を広げる双葉は、ポカンとしながら小首を傾げる。


「普通は五円玉だろ。ご縁がありますようにって」


「私はお願いするんだったら、自分が貰って嬉しい額を神様にもあげるよっと!」


 双葉が賽銭箱へ投げ入れたのは小銭ではなく一万円札だった。


「……こりゃ神様も喜びそうだな」


 自分が貰って喜ぶ額を入れるという暴論、なんとも双葉らしい。

 二礼二拍手一礼を丁寧にする。チラリと横の双葉を見れば、目をしっかり瞑り、静かながらも俺以上にお祈りをしていた。


「ちゃんと願いしたか?」


 ご神前から離れると、おみくじやお守りが売っている授与所へと移動しながら俺は言う。


「そりゃもちろん」


「なんてお願いしたんだ?」


「これからも可児くんと幸せに居られますように~って」


「そこは仕事のことお願いして欲しかったんだけど」


 ここのお寺の説明さっきしたばっかだよな?

 せっかくすごい念じてお願いしてたんだったら、仕事のことをして欲しかった。

 二人の幸せは俺がお願いしておいたからな。


「仕事は自分の力で成功させるからいいの! 神なんかに頼って貰わなくても私は絶対に成功させる!」


「バチが当たりそうだな……」


「大丈夫! 私は神に好かれてるからね……多分だけど」


 やはり俺の予想は当たった。

 社長にも言ってたように、双葉は自分の可能性を信じている。


 どこからその自信が出てくるか不思議で仕方がないが、自己肯定感が低く何かに頼りっぱなしの人よりかは何倍もいいことだと思う。

 それに、有言実行できているのがカッコよくて仕方がない。

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