第72話 裸の付き合い

 人が疲れを取るためにする行動。

 睡眠、食事、そしてお風呂だ。


「ふぅ~、気持ちいねぇ~」


「双葉さん……流石に恥ずかしいですよぉぉ」


「俺が一番恥ずかしいし気まずいんだよ!」


 先に2人にお風呂に入るよう勧めた俺であったが、何故か今、同じ大理石の湯船に浸かっている。


「まぁまぁ、2人ともそこまで恥ずかしがらなくてもぉ~」


 湯舟の縁にタオルを置いて、その上に頭を沈めながら双葉は言う。


「わ、私異性とお風呂に入るのなんか生まれて初めてですし……推しの全裸見るとか異性の全裸見るより恥ずかしいです……」


「女の後輩といくら間に友達がいるとして、一緒にお風呂に入る男の気持ちも考えたらどうだ⁉」


「ほら、裸の付き合いっていう言葉もあるわけだし」


「同性限定だよ!」「同性限定です!」


 顔を赤くしている俺と柚葉の声が重なる。

 全員、大きめのバスタオルで体を覆ってはいるものの、お湯に濡れて体にペタリと引っ付き体のラインがくっきりと見える為、何も身に着けないよりも恥ずかしい状況が生み出されている。


 女子はまだ突起が小さいからいいものの、男子なんて普通でも目立つものが下半身についているからな。

 なるべく見苦しものを見せないように、2人には、というか柚葉を気遣って背を向けて入ってはいるが、そんなの気休めでしかならない。


「せっかく入ったんだし、ゆっくりしようよ」


 冷蔵庫から持ってきたキンキンに冷えた瓶コーラを開けると、湯舟に浸かりながらゴクゴクと飲みだす双葉。


「お前は気楽でいいよな。どっちも知り合いだし、どっちの体を見てもノーダメージなんだからな」


 柚葉は同性だから何もないし、俺は彼氏だから見たとしても双葉は多少興奮するだけだ。


「お風呂で気を張っててもさらに疲れるだけだよ~。温泉は体を溶かすために入るものなんだからぁ~」


 ブクブクと口元まで顔を沈める。


「推しの体……尊いっ」


 横に座っている柚葉は俺を気にするよりも、双葉の体を気にして目を両手で覆っているし。

 なんともカオスな光景だ。


 俺はというと、端に体を寄せて縮こまっている。

 これでは温泉に何時間浸かったとしても疲れなんて取れない。

 むしろ逆に疲れが溜まるまであるし。


 それにタオル一枚の彼女が目と鼻の先にいるんだ。

 興奮しないように抑えるのでさえ精神力を使う。


「俺にもコーラ」


 このままではのぼせて大変なことになりそうなので、水分補給をしようと双葉に手を伸ばす。


「私の後ろにいっぱい置いてあるからご自由にどうぞ~」


 手で渡してくれればいいものの、既に温泉に浸食されている双葉は一向に動こうとはしなかった。


 その気持ちは分からなくもないが、せめてこのくらいは動いて欲しい。

 俺はなるべくこの場から動きたくないんだ。

 変に動くと柚葉の目に毒なものを見せてしまうかもしれないからな。


 目をトロンとさせて気持ちよさそうにしているのは、俺も嬉しいし連れて来てよかったなと思うが、どんなに疲れていても恋人のお願いくらいは聞いてくれてもいいだろ……


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