第70話 推しに奢られる
双葉と予約したホテルの一室。
ウェルカムドリンクや個室露天風呂まで付いたスイートルームには、
「女子会開始だぁぁ!」
「だぁぁ!」
追加で一人が加わっていた。
「女子会って、一人男子がいるんですけど?」
部屋の中心に置かれているテーブルと座布団は2人に占領されているため、俺は窓際にある一人席にポツリと座っていた。
なんで元々この部屋に泊まるはずだった俺が優遇されないんだよ。普通この席は柚葉が座るはずなのに。
双葉の前で笑顔を浮かべているのは俺だったはずなのに……今日は我慢だ、我慢……
「浴衣に着替えて、瓶のコーラとポテチを準備。お布団も敷いている……なんて最高の女子会なんだろう」
机にぐでっともたれかかりながら言う双葉。
「わ、私までこんなにおもてなしされていいんですかね? 飛び入り参加なのに……」
「いいのいいの! お金はどうせ私が負担することになるだろうし、気にしないで?」
「そんな! 推しに奢ってもらうなんてプライドが許しません! どんなに高くてもバイト代貯めて絶対に返しますから!」
「えぇ、逆にファンとして推しに奢ってもらえるという貴重な体験を楽しめばいいんじゃないの?」
「……確かに」
なんてちょろいんだ柚葉は。
このおもてなしも半分は俺の為にあったんだからな? それを本当に理解しているのか?
突然押しかけたものだから、旅館側だって柚葉の分は何も準備していないし、俺が色々と譲ってるんだぞ?
その席と飲みものとお菓子……あとは2人の時間まで。
今日は妥協すると言っても、ムカつくものはムカつく。そんな時は、目の前にいる双葉を見れば落ち着ける。
あの笑顔、俺の心に突き刺さる。
「夕飯はもうすぐだし、食べ終わったら何しよっか」
瓶コーラを一口飲むと、ぷはぁ、っとおっさんのような息を吐く双葉。
「私に決定権はないので、2人に従うだけです!」
「私ももう旅館に来たから特にすることはないんだよねぇ。夜ご飯の動画をちょろっと撮って撮影は完全に完了だし」
「何かしたいことか……」
双葉と2人だったら色々したいことはある。
卓球をしたり、露天風呂に一緒に入ったり、そのままベッドインしたり。
そこに柚葉が居るとなると、途端に思いつかなくなる。
それに、女子会に俺が変に加わったとしても居心地が悪いからな。
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