第69話 お泊り会、してみたかったの

「はぁ⁉」


 それを聞いた俺は、反射的に声が出てしまう。

 いやいや冗談じゃない! なんでいきなり押しかけてきた邪魔者をわざわざ俺たちの部屋に泊めてあげなきゃいけないんだ!


 愛の巣に入り込まれたらたまったもんじゃないぞ⁉

 今日は疲れているながらも欲しがる双葉に朝まで付き合う予定だったのに、柚葉が来たら何もできなくなる。


 俺は下心丸出しで言うが双葉と二人で泊まりたいんだよ!


「俺はごめんだぞ? それにわざわざ俺たちの部屋に泊める必要性を感じない」


 提案する双葉に、俺は断固として拒否をする。


「ほら、私たちが予約した部屋3~4人部屋じゃん? フロントで差額を払えばホテルを今から取るより安く泊めてもらえると思うんだけど……」


「いやそうかもしれないけど……流石にダメだろ! 俺たちにだってプライベートがあるんだ。


「プライベートって言っても、私たちは明日も泊まるんだからいいじゃん~」


「せっかくの丸2日の泊まりを俺は誰にだって邪魔されたくないの!」


 もちろん色んな意味で。

 駄々をこねる俺であったが、


「可児くんは可愛い後輩を知らない夜の街に放り出す冷血な人じゃないよね?」


「放り出すとまでは言ってないだろ俺……」


 可愛げな表情をしながらも、圧を感じる。

 双葉だって本当は嫌なはずだ。

 あれだけ泊まりを楽しみにしていたのに、後輩のためにここまで妥協するか?


 可愛い後輩の友達、という観点から見れば助けてあげたい気持ち分かるが、ちゃんと救済はしているわけだし、一緒に泊まる必要性がない。


「私、友達と一回お泊り会してみたかったの」


 ポツリと双葉は呟く。


 ……そうか、友達とのお泊り会を経験したいのか。


 一番そうゆうのが楽しい中学の時から今まで仕事づくしで友達としたことがなかった。

 だからせっかくの機会だし今日ここでしたいと。

 部屋には大きい個室露天風呂も付いているし、アイスは食べ放題。

 フカフカの布団をくっつけて朝まで女子トークも出来る。


 お泊り会には最高の環境だ。


 俺の欲と双葉の欲を天秤に掛けた結果、


「今日だけ……泊めるのは絶対今日だけだからな」


 必然的に俺の意見は自分の中からも取り下げられた。

 この旅行の一番の目的は双葉に楽しんでもらう、双葉へのご褒美だ。

 たとえ俺が妥協しなくてならなくても、双葉の為なら喜んでする。


 本心はもっと抵抗したいのだが……今回ばかりは負けだ。

 彼女のわがままを聞いてあげるのも彼氏の役目だ。そういうことにしておこう。


「やった! 許可が出たよ柚葉ちゃん!」


「双葉さん……嬉しすぎて死にそうです!」


 笑顔で抱き合う2人を見て、この笑顔が見れるのなら……と静かに思うのだった。


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