第68話 金なし、宿無し、帰る術なし
「というかお前。今から家まで帰れるのか?」
問題はそこだ。
スマホで時刻を確認しつつ、俺は柚葉の方をチラリと見る。
そもそも今から帰れるかどうかの問題が差し掛かる。どこかのカフェでゆっくりと話す時間などそもそもないかもしれない。
「……ごめんなさい。帰りのこと何も考えてませんでした……」
冷や汗を垂らしながらペコリと頭を下げる柚葉。
行動力は凄いとは思うがそこに計画性がなくて困る。突然推しかけられた俺達にも迷惑がかかるわけだしな。
「今からだと……無理だな」
とりあえず現在位置から学校までの帰路を調べてみるが、帰れそうもない。
電車とかバスの本数が少ないし、移動時間も含めると帰宅するのは不可能に近い。
「それにお金持ってるのか?」
突発的に来たとなると、お金もあまり持っていないかもしれない。
来るのでさえそれなりの金額がするのに、帰るお金などあるのだろうか。
「どうしよう……今日、お金も全然持ってきてないから野宿……?」
やはりないらしい。
金なし、宿無し、帰る術なし。完全に詰んでる状況に、絶望した顔で柚葉は地面を見つめる。
本当にどうしようもない後輩だ。このまま放置するわけにもいかないし、馴染みのない夜の街に女子の後輩を置いていくほど野蛮な俺ではない。
「俺たちが取ってるホテル、空きがないかチェックインするときに聞いてみるよ」
安心させるように柚葉の肩を叩きながら言う。
「ダメだったら、温泉街から少し離れたビジネスホテルなら泊まれると思うから。お金は帰りの電車賃とか含めて全部出してあげるから」
「ほ、本当ですかぁ?」
「アポなしで突撃して、帰れない宿もないお金もない後輩を放置するわけにもいかないからな」
「可児さん……これからメシアと呼んでも?」
「恥ずかしからやめろ」
上目遣いで両手を握る柚葉。
なら早速ホテルにチェックインした方がよさそうだな。先に観光客に客室を取られてもあれだし。あとは、ビジネスホテルにも空きがあるか連絡しておいた方がいいな。
こうゆうのは念には念を入れないと本当に柚葉が野宿する羽目になる。
「お金はざっと3万くらいあれば足りるか」
財布のから諭吉を取り出す俺。
社長が余るくらいにお金をくれていてよかった。まさかの使い道だが柚葉にあげたとしてもまだまだ豪遊できる。
「ほら、これ――」
と、柚葉に手渡そうとしたが、バっと双葉は手を被せてくる。そして、
「今日は一緒に泊まらない?」
思いもよらない提案をするのだった。
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