第66話 フラグ成立
「さてと~、ホテルで荷物預けてぶらつきに行きますか」
ボディーバッグにカメラをしまい、双葉の肩に手を回しながら言う。
「えぇ~そのまま行っちゃおうよ~。時間勿体ないし~」
「コインロッカー代バカにならないだろ。あとで清算した時になんて言われることやら」
「そこは社長を怖がるんだ」
「金額が払えるくらいだからな。現実味があると請求されかねない」
「まぁね」
数千円と現実味がある金額だと、無駄な経費ということで後から請求されるかもしれない。
請求はされなくても、その数千円でこの旅行をより有意義に過ごせるかもしれない。
お金は山ほどあるが、多いに越したことはない。
「それにチェックインも早めにしておいた方が後々楽だろ。疲れた体で受付とかしたくないし」
「うん、そうだね」
湯畑に反射する夕焼けを眺めながら、双葉は俺の肩にそっと頭を乗せる。
俺たちの休暇はここからだ。
誰にも邪魔されない2人だけの旅行が今から幕を開ける。
でも、そのためにしなければいけないことが一つある。
「ホテル入ったらまず変装だね」
「……有名人は大変だよな」
今更バレたとて、双葉に恋人がいることは世間に公言しているためダメージはない。しかし、せっかくのデートを邪魔されては元も子もなくなる。
今日も撮影中にファンに話しかけられたらマネージャーだとか、今こうしてくっついているところが見つかったとしてもまぁ彼氏とは言える。
けど幸いなことに誰からも話しかけられることはなかった。
隠し撮りされてたら……なんて考えるけど、そんなことで大問題にはならないから気にしないことにしよう。
拡散されたとして、どうせ双葉は「ラブラブでしょ」と自慢するんだろうからな。
「この時間がずっと続けばいいのに……」
ポツリと双葉は呟く。
「死亡フラグみたいだぞそれ」
「人生で一度言ってみたかったんだよねぇ」
「響きはいいけど確実にフラグは立ったな」
「いつ回収するんだろうね~」
「旅行が終わるまでは回収しなければいいんだけど」
と、俺は苦笑する。
始まりにフラグを設置すると、どこかで回収するのが定番の流れだ。伏線と全く同じ。
この旅行は双葉以外の余計なものを考えたくなかったのだが、これじゃ頭の片隅に残ってしまう。
ハァっと大きくため息を吐く俺と、その横でクスクスと笑う双葉。
「やっと見つけました……だ天使ちゃん……」
そして、後ろから双葉の名前を呼ぶ女子の声が聞こえる。
一瞬警戒する俺であったが、妙にどこかで聞き覚えのある声に、顔を見なくても後ろにいる人物が分かってしまった。
双葉のことをだ天使ちゃんと呼ぶ女子で俺が声を聞いたことがある人なんて思い当たるのは一人しかいない。
「……柚葉」
俺たちの背後にいたのは、だ天使の大ファンであり、俺たちの後輩である涼風柚葉 の姿。
最速でフラグを回収してしまったのだった。
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