第60話 ご褒美企画
双葉の寝顔を見ながらそう考えていると、事務所の扉が開く。
「可児くんちょっといいかな~?」
入ってきたのは、ノートパソコンを抱える社長であった。
「お疲れ様です……って本当に疲れてるじゃないですか」
「あぁ、仕事が終わらなくて最近徹夜続きなんだよね~」
「双葉といい社長といい、ちゃんと睡眠はしてくださいよね」
しゃばしゃばとした目の下には、クマがくっきりと浮かび上がっている。
この業界というものは、仕事の場所も時間も問わない。
いつどこでも出来るからこそ、仕事と休息の区切りが曖昧なのだ。
「まぁそんなことはいいとして、双葉くんに一つ企画を提案したいんだけどいいかな?」
「……内容によっては引き受けないかもしれないですね。今は双葉の健康を第一に考えたいので」
これ以上、過酷な仕事を引き受けるわけにはいかない。双葉がいくら頑張ると意気込んでも、様々なことを考慮してセーブするのもマネージャーの仕事の内だ。
「安心したまえ。私も色々考えて企画したから」
自信ありげにパソコンを開くと、企画書を俺に見せてくる。
「今回なんだが、双葉くんにご褒美企画をしてもらおうと思う」
「……温泉旅行ですか」
企画書の内容をざっくりと目を通す。
動画を撮影はするものの、双葉には自由に行動してもらうというのが今回のコンセプト。
撮影する際、最低でも2~3人スタッフを用意するのだが、温泉に同行するのは俺と双葉の2人。
いわゆる『Vlog』のような感じだ。
「双葉くんも頑張ってるからな。私としても何かご褒美をあげたい」
「それが今回の企画ですか」
「企画自体は私がしたものの、本当に自由にしてもらって構わない。というか何をしても許されるのが双葉くんのいいとこだろ」
「今更文句を言う人なんていないですしね」
恋人がいるからアイドルを辞め、炎上会見を開き、Youtuberに転身。
こんなに自由奔放な双葉にこの期に及んで口を出す人はいないだろう。
今となっては、裏表がない双葉を推す人の方が多いまである。
「可児くんもカメラマンになると思うが、気楽に挑んで欲しい。これはホームビデオだ」
「いくらご褒美企画とはいえ、手を抜いていいんですかね」
「この手抜き感がファンに需要があるんだよ。オフの姿のアイドルが可愛いのと同じだ」
「あいつはもうアイドルじゃないですよ」
「ブラックジョークはやめてくれ……私も色々それで苦労したんだから」
「自分で言い出したんじゃないですか……」
社長も双葉のせいで大変だった人間だからな。迷惑とかいう次元を超えている。
「予算とか場所とかはこちらで手配をしておくから、詳細は決まり次第連絡するよ」
「了解です」
「あ、でも一つだけ注意事項いいかな?」
俺の前にピシりと人差し指をあげる。
「なんです?」
双葉が調子に乗って羽目を外しすぎるなとでも言うのだろうか。
いくら裏表がないと言っても、本当に見せれない姿もあるからな。
それは俺が一番知っている。
その姿を見せてしまったら、今度こそ双葉のファンは幻滅していなくなってしまう。それをセーブは、マネージャーとしてではなく、彼氏としての役目だ。
俺だけにしか見せない表情をファンになんて見せたくないからな。
「くれぐれもエッチのシーンだけは撮らないでくれよ? 垢バンなんて洒落にならないから」
両手を合わせて本心からお願いする社長に、
「撮るわけないだろ!」
と、即答する俺。
AVを撮影する気なんてさらさらないわ!
確かに旅館に泊まってテンションが高くなって個人的に動画を撮ってしまうかもしれないが……それを誰かに見せたりなんてするわけがない。
撮影したとしたら、別の業界で人気が出るのは間違いないだろう。元人気美少女アイドルのAVなんて大人気間違いなし。
が……そんなこと俺が絶対にさせるわけがないだろ!
双葉を抱くのは俺だけでいい!
あの体を堪能できるのはプロ男優でもなく俺だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます