二章

第59話 ……こんな大変、なの?

             連載再開!



 大人気アイドルグループ『フォーリン♡エンジェル』が解散。そしてグループのセンターを務める『だ天使ちゃん』こと露崎双葉が自ら熱愛を暴露してから二ヶ月が経とうとしていた。


 新たな事務所でYoutuberになった双葉は現在、動画を制作しながら生配信で着々とファンを増やしていた。


 大炎上からの大逆転。


 双葉だからこそできた偉業に、俺も関心していた。

 このまま順調に物事が進めばいいものだが……まぁ現実はそう上手くいかない。


「もう……限界だ……」


 エナジードリンクの空き缶が散乱したPCデスクにうなだれ、おでこには冷えピタ。目の下には酷いクマがある双葉が俺の目の前に居た。


 ここは、事務所の動画編集担当が仕事をするスペース。

 新人Youtuberということもあり、ノウハウを掴む為に最初の三か月は自分の動画を自分で編集しようと意気込んだ双葉であったが、2週間も経たないうちにこれだ。


 既に社長が編集を数人雇っているが、今は双葉の教育係に回っている。


「編集って……こんな大変、なの?」


 死にそうな声で呟く双葉。


「大変に決まってるだろ。それにお前は他の仕事もしてるんだから」


「ありがたいことに、お仕事色々決まっちゃったもんね」


 いくら炎上したとはいえ、元は人気美少女アイドルの双葉。そんな双葉がYoutubeを始めたら話題にならないわけがない。


 ここ一週間もX(旧Twitter)でトレンド一位を独占しているし、急上昇も一位をキープしている。


 そのため、あらゆる業界の人が双葉を再注目して、仕事が山積みになっている。

 もちろんマネージャーである俺がある程度セーブはしているものの、それでも双葉の仕事量は半端ない。


 そこに加えて編集まで自分でやっているんだ。アイドル時代より遥かに今の方が忙しい。

 こんな双葉の疲れ切った顔、見たことがない。


「そろそろ休憩してもいいんじゃないのか? もう何時間ぶっ続けで作業してると思ってる」


 双葉の肩を叩くと、俺はため息を吐きながら言う。


「えっと~……今何時間目?」


「8時間目だ。一回寝て休め」


「でもまだ編集があと少し残って――」


「いいから寝ろ! 体壊れたら元も子もないんだぞ!」


 キツく言いながら、俺は持っていた枕と毛布を双葉に投げる。

 頑張りたい気持ちも分かる。新たな門出だし、手が抜けないのも重々承知している。


 しかし、そんな大事な時期に体調を崩していたら本末転倒だ。


「それに、もう慣れてきたんだし編集はスタッフに頼ってもいいんじゃないか? せっかく社長が雇ってくれたんだし」


「それもそうかも……ね」


「詳しい話は後でしよう。とりあえず寝ろ!」


「うん……そうす――」


 そう言いかけた双葉は、意識がプツリと切れて机に倒れ込む。

 数秒後には、幸せそうな寝顔を浮かべながら、ぐっすりと眠っていた。


 こんだけ一瞬で寝れるとか、どれだけ頑張ってたんだよ双葉は。俺もマネージャーとして色々と仕事があって隣にいる時間があまり取れていなかったが。こんなことになるならもっと近くに居てあげればよかった。


 マネージャーとしてもそうだが、彼氏としての方が大きい。

 可愛い彼女が苦しそうに仕事しているところなんて見たくないからな。



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