第58話 一人じゃない
「何、急にどうした?」
「いや、改めてお礼を言おうかなーて」
「嬉しいけど、タイミングすごくない?」
「いやぁ~、こうゆう個室で2人きりの方が言いやすいなぁ~って」
少し顔を赤くしながら口をすぼめる。
「そんな改まってお礼なんて言わなくても、俺はいつも双葉にお礼されてるぞ?」
双葉の頭を撫でる。
「私、アイドル引退してから可児くんにこうしてまじまじとお礼なんて言ってなかったと思うけど?」
「それはそうなんだけどさ」
「何かしたっけ? 私」
「俺は、双葉が笑顔なだけで一緒にいてよかったな~とか、手伝ってよかったな~って思うからさ、俺にとってはその笑顔がお礼みたいなもんなんだよ」
面として言われれるのは嬉しいしありがたい。
けど、双葉が笑顔だったり、喜んだり、楽しそうなだけで、俺は嬉しいのだ。
誹謗中傷などで、心が折れて絶望している顔を見るより、元気いっぱいな顔を見るのが何より俺の幸せ。
「私さ、可児くんがいなかったら絶対ここまで来れなかったんだよね」
「Youtuberになるって所までか?」
「ううん、アイドルしてた時からだよ。それに可児くんがいなかったら今も嫌々アイドル続けてて、それはもう病んでると思うよ」
社長も同じような事を言っていたな。
何かをしたい時、一人で行動に移すのには勇気がいる。
しかし、誰かがいないと現状を引っ張り、そのままになることが多い。
双葉の行動の一歩に、俺が手を差し伸べていたということか。
「だから、ありがとう。私をここまで連れてきてくれて」
俺の手を握り、少しうるんだ瞳でこちらを見つめる。
「双葉は自分の力でここまで来たんだよ。全部が俺のおかげじゃない、だから自分もさっきのテンションくらいで褒めてあげて。あと……俺もありがとうね、傍にいてくれて」
本当なら、俺みたいな凡人が双葉のような誰もが認める天才の横にいてはいけない存在だと思う。でも、そんな俺を傍にいさせてくれる。
俺の方がお礼を言いたいくらいだ。
人気美少女アイドルの隣の席になってから始まったこの生活。
アイドルを辞めて炎上、会見で炎上。ガチファンの柚葉の言葉でYoutuberを始める。
初配信でアンチたちを排除し、今のインターネット現状を伝え賞賛を得た。
これまでずっと傍で見てきたから分かる。
双葉は才能の塊だ。
そりゃーダメな所だってある。口が悪いことだったり、何も考えずに行動する所だったり、ちょっと人より性欲が強かったり。
最後のは置いておいて、それを上回るほどの才能に溢れてる。
歌唱力、トーク力、ダンス、人の良さ。
それに、
『次回の配信も楽しみ!』
『毎週の楽しみが出来たわ~』
『配信だけじゃなくて、単発動画も絶対面白いんだよな~』
『アイドルの時より、ずっと好きになりました』
『いいファンばっか増えて、世界一平和な囲いになりそう』
『最初はどうかと思ってたけど今のネット社会を考えさせられたからちょっと推せる』
『この腐ったネットの中には双葉ちゃんのような成敗する人が必要!』
『うん、やっぱ最高』
『いつ見ても可愛すぎるよぉぉ~!』
『毒説が面白い』
『双葉ちゃんド正論だよね。人を叩くのにはそれなりの覚悟を持てって』
『高校生なのにちゃんと世の中を考えてるの普通に凄すぎな』
『とりあえず、今週はアーカイブ見て満足しておく』
『早く来週にならないかなぁ~』
『双葉好き!』
『双葉ちゃん愛してる!』
『ずっと推す!』
『神!』
『可愛い!』
『好き!』
『推せない理由がない!』
『一生ファンです!』
正真正銘のファンもいる。
これからは、双葉一人ではない。
ちゃんと『推し』でいてくれるファンもいる。
柚葉がいる、社長がいる、そして、俺がいる。
味方は周りを見れば沢山いる。
だからこそ、俺は確信している。
「私偉いぞ! ここまで来れて! これから可児くんと世界を制覇するんだ私はぁぁぁ!」
ベッドで飛び跳ね、声を張って公言する元アイドルの新人Youtuberは……
世界の誰しもが知る有名人になることを。
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