第56話 お礼と余計なお世話
「あの~、別にこれを渡さなくても持ってますし」
財布の中にちゃんと常備はしているし、最悪ホテルに備え付けの物があるしな。
「いやいや~、頑張った時くらいちょっといいゴムでシたいとは思わないかい? 0.01の」
「……いやまぁ、そうですけど」
「だから差し入れだよ。ジュースとかはおまけね」
「ありがとうございます……」
喜んでいいのか、双葉みたいに受け取るのを拒否すればいいのか。
でも、貰えるものは貰って置こう。必要ないものではないしな。
持って帰ったら、双葉に「なんで持って帰ったの!」とか言われそうだな。
「あ、あとは君にお礼を言いたくて来たんだよ私は」
ポケットから缶コーヒーを取り出すと、一口飲んだ後に言う。
「お礼ですか?」
「そうそう。双葉くん、君がいなかったらアイドルも今の活動も出来ていなかったからね」
「そうなんですか?」
「うん。アイドル時代、彼氏とは一言も言っていなかったけど、心の支えがいるから活動を続けられてるってよく言っていたからね」
社長にもそんな事を言っていたのか。
でも、双葉の支えになれていたなら嬉しい限りだ。
「だから私からも、ありがとう。双葉くんを支えてくれて、そしてちゃんと導いてくれて」
改まった顔をする社長は、俺に向かって頭を下げる。
「顔を上げて下さいよ。僕にお礼だなんてそんな大丈夫ですって」
ここまで感謝されることに困惑する俺。
「有名になれたのも、復活できたのも、全部双葉自身が頑張ってきた成果ですよ。俺は傍で見ていただけです」
「その傍にいる存在が、可児くんだったから双葉くんはここまでこれたんだよ。私には分かる」
「そうなんですかね……」
「双葉くんが私にまで言っていたんだ。間違いないよ」
「嬉しいですね、それは」
これだけ信頼されているし、頼りにされている。これからも、双葉の隣に入れたらとつくづく俺はそう思う。
双葉に「いらない」と捨てられるまで、俺はずっと隣で色々な双葉を見たい。
「ってことで、今日は2人でそれ使って楽しんできな~」
話が済んだからか、陽気な声で足早に部屋を去ろうとする。
「た、楽しんできます」
「あ、ホテル代も会社の経費で落としてあげるから安心しなね~」
ドアを開け廊下に出る社長の背中に、
「あ、うす」
と、軽い返事を返した。
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