第48話 前日


「公式配信まであと1日っと!」


 数日後、スマホを操作しながら双葉は自室に陽気に呟く。


「もう明日なのか、緊張するな」


 事務所に所属してからの初配信明日へと迫っていた。

 俺も双葉も、契約書などを熟読し、正式に事務所と契約を結んだ。

 これで、事務所所属Youtuberとマネージャーになった。


 新事務所の名前は『RAPID』。命名したのは社長だ。名前の由来は、急に出来た事務所で、急にやめたアイドルが所属しているからだそうだ。

 安直だし、由来を知られたら炎上しそうな名前だな。


 ちなみに、双葉が個人で出したチャンネルをそのまま使用してこれから活動は行う。

 社長に呼び出される前に出した動画は、もちろん消去した。

 高評価10万、低評価11万と盛り上がりを見せたが、多分、明日の配信はこれよりもっと盛り上がりを見せるだろう。


「18時から始まるからそれまでに準備しておかないと~」


「公式Twitterで実況とか?」


「あ~、あり」


 Twitterも公式のを作った為、自由に投稿できる。まぁ、言い過ぎるのは注意されるだろうが、多少は過激な発言をしてもいいと許可は出ている。


「とりあえず、話す内容の原稿は大体頭の中に入ってるから、あとは発言に注意すれ問題なしかな」


 パソコンでメモ帳に書き込んだ原稿を眺めながら言う。


「だな~。一番は言葉だよ」


「だよね~、あんまコメントとかに反応しないようにしなきゃ」


「アンチに攻撃的になるなよ? 無視だ無視」


「あんなの相手にしてたらキリがないしね~、流石にそれくらい私でも分かる」


「ならいいけど」


 コメントしてくる過半数が批判する内容だろうし、それについて言及したらさらに湧いてくる。


「これからまた頑張らなきゃなぁ~!」


 椅子に背もたれに寄りかかりながら背伸びをする双葉。


「短い引退期間だったな」


「んね! 一ヵ月もくらいだったよほんとに」


 しばらくゆっくりと日常を満喫できると思っていたが、すぐに活動を開始する。

 俺的にはもうちょっとデートとか双葉と色々したかったけどな。

 でもこれからは周りを気にせずに街を双葉と手を繋ぎながら歩ける。デートだってどこでも行ける。


 なにせ恋愛禁止という縛りは無くなったからな。


「もっと静かに可児くんとイチャイチャ出来たらよかったんだけどなぁ~3ヵ月くらい」


 椅子から立ち上がると、座布団に座る俺の膝へ頭を乗っけてくる。


「けど、前よりゆっくりはできるんじゃないか?」


「そうかな?」


「アイドルみたいに各地を転々としたり、レッスンとかその他諸々もなくなるから、時間はたっぷりできるんでしょ」


「たしかに! Youtuberは自由に仕事が出来るのが醍醐味だった!」


 ハっとした双葉は満面の笑みを浮かべる。

 それに、これから仕事も一緒にするんだ。心配しなくても一緒にいる時間は自然に増えるだろう。


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