第39話 安心できない

「荷物持ちでも残飯処理でも行列待ちでもなんでもするのでついて行かせてください!」


 頭を何回も下げる柚葉。

 残飯処理って、流石にそれはやりすぎなのでは?

 にしても雑用にされる気満々だな。


「人が増える分には俺は大丈夫だぞ。ちゃんと荷物持ちはしてもらうけど」


「じゃぁ3人で買出しいきますか~」


「やったぁ~! プライベートで双葉さんと遊べるぅ~! 私明日死ねるかも!」


「死ぬなら買出しに行ってからにしててよ。てか死なないで」


 空を仰ぎながら言う柚葉に、双葉は細い目を向ける。


「あ、でも環境を整えたとてさ、元事務所の人とからからなんも言われないのか?」


 ふと俺は思う。

 いくら事務所を辞めたとしても、すぐに復活をしたらなにか関係者から言われそうだ。

 止められることも十分ありえる。


「大丈夫なんじゃない? もう赤の他人のわけだし」


 軽い声色で言う双葉に、


「もし止められたら?」


「そん時は全力で戦争するしかないよね?」


「結局戦う羽目になるのか……」


「そんな心配しなくても絶対にならないから安心してって」


「全然安心できないから俺は言ってるんだよ」


「私を信じて? これまで私の予想が外れたことある?」


「何回もあるから言ってるんだよ」


 双葉の大丈夫は全く大丈夫ではない。むしろ危険信号だ。

 直感のままに生きているから出来ることもあるだろうが、それだけじゃ出来ない事案だってある。


 それが、今から始めようとしている事だ。

 俺は予想が出来るぞ? 元事務所に呼び出され、俺と双葉が肩を縮めて社長の前に座っているところが。


「ま、まぁもしいちゃもん付けられたら訴えてやるからいいもんね~!」


 フフンと鼻を鳴らす。


「んな簡単に行かないんだぞ?前は一般人相手だったし一方的にネット民が悪かったから事案が成り立っただけで、今回はそう上手くはいかないぞ」


「なんで?」


「なんでって……相手は会社だぞ? それもインフルエンサーが多数所属する大手。あと、逆に訴えられてもおかしくないからな?」


「え、私が訴えられるの? なんで?」


「勝手に事務所を辞めて挙句、ファンのことをボロクソ言って、アイドルの印象を下げたから。『こんなアイドルがいる事務所とかどうなってるんだ』ってクレームが来て会社の評判がガタ落ちで損害賠償請求とかありそう」


 普通にあり得る話だ。よく今まで告発されなかったと俺は思うよ。


「んまぁ、大丈夫っしょ!」


 と、余裕にウインクしながら目元でピースをする双葉。

 ……一回、本当に一回でいいから痛い目を見て欲しいと思うよ。


 彼女だし、守りたい存在だが、一回怖い思いをしてもっと慎重に動くようにしつけた方がいい。

 そっちの方が絶対に双葉の為になるからな。

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