第34話 もう一度


「ねぇ、一回可児くんと2人にさせてくれないかな。大事な話をしたいの」


 袖を掴んでいる柚葉の手をさする双葉。


「は……はい。私ちょっと外で風に当たってくるのでお2人でゆっくり話していてください」


 少しくらい駄々をこねると思っていたが、あっさりと頷き席を立ちあがる。

 重い話をしてしまったと反省しているのか、なにか地雷を踏んでしまったと思っているのだろう。


 アイドルを辞めた理由を知ってる俺からしたら、これは言ってはいけない内容だとは思う。

 自由を手に入れた人から、また自由を奪うような事だからな。


 もし、アイドルに戻れば炎上の件をまず謝罪しなければないらないし、しないにしても持ち直すのは大変だろう。

 ファンは激減、何かアクションをするたびに叩かれることが目に見えている。


 そんな生活、いくら叩かれても大丈夫な双葉でも、精神を削られる。

 モデルやYoutuberも同じだ。

 どちらにしろ、持ち直すことは不可能だろうし、覚悟を決める必要がある。


「……可児くん」


 柚葉は個室から出るのを見届けると、双葉はゆっくりと口を開く。


「私、どうしたらいいのかな……?」


「どうって……自分のやりたいようにすればいいと思うよ俺は」


「やりたいようにって言われても、やめた私がもし今からまた芸能界戻るとか言い始めたら、ただの自己中みたいになるし……可児くんがどう思うかも分からないし……」


「俺は、双葉が何をするにしても応援するよ。双葉が好きな事してる姿を見るのが、俺は好きだからね」


「そっか……」


「双葉はどうなんだ? もう一度人前に立ちたいとは思うのか?」


 お茶を一口飲むと、改まって俺は聞く。


「私は……柚葉ちゃんの言葉を聞いて思ったよ。キモいファンだけじゃなくてやっぱりいいファンもいっぱいいるんだって」


 叩く人がいるということは、いいファンもいるという事。前にも言ったが、表に出ていないだけで影でグループを支えているのだ。


「少なくとも、柚葉の周りにはいるって言ってたしな」


「私さ、多分そうゆうファンをこれまであんまり見ないようにしてたかも」


 ストローでグラスをかき混ぜながら視線を落とす。


「それはなんでだ」


「アイドルを辞める理由を探してたのかもね。全部キモいファンのせいにして、もちろん可児くんと一緒に居たいからっていう理由が一番だったんだけど、やり方はもっとあっただろうし……まぁ、愚痴を言いたい放題言えたのはスカッとしたけどね」


 軽くはにかむ。


「今更になって気付くのかよ……」


「ごめんじゃん……あの時は全部吐き出したかった気分だったの~」


「まぁお前らしくて俺は見てて面白かったしな」


「人が炎上発言してるのを面白がるな~」


「あれは面白いだろ、どう考えても」


 真顔でジーっと2人で見つめ合う俺達。


「プププっ」


「っ……ははっ」


 数秒見つめ合うと、途中でおかしくなり同時に吹き出して笑う。

 やっぱり双葉の笑ってる姿、好きだな。


 悲しい気分で話しているより、こうやって笑顔で話す方が気持ち的にも楽だ。

 真面目な話なんて笑って居てもできるし、それに、気持ちが沈んだままだとネガティブな考えしか出ないからな。


「んで? 双葉はどうなんだ? 柚葉とかに流されて決めるんじゃなくて、自分に聞いて答えて欲しい。」


 俺は深呼吸をして、


「双葉はもう一度輝きたいのか?」


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