第33話 決めるのは俺じゃない

「私、中学の頃イジメられていたんです。それも2人が思っているのの100倍くらい酷いもので、中1の後半から卒業まで一回も学校に行ってないんです」


「そ、そっか……」


「本当に辛くて、死にたくて……もうこの世になんて居たくないって思った時に出会ったのが――」


「私だったってことね……」


「はい……なんかすみません。重い話をしてしまって」


 と、柚葉は申し訳なさそうに肩を竦める。

 そんな柚葉を見かねた双葉は、


「ううん、大丈夫だよ。私も経験あるから」


「え、双葉イジメられたことあるの?」


「あるよ~、中学のことは妬み僻みで結構散々だったよ私」


 聞いたことなかった。

 そこまで双葉の過去を詳しく聞いたことはなかったが、あったのか。


 小学校や中学校では、人気者が周囲に妬まれていじめに発展することがよくある話。

 それが人気アイドルだとなおさらかもしれない。


「私は『だ天使ちゃん』に出会って勇気を貰いました。初めて生きがいを見つけました。『だ天使ちゃん』から貰った言葉が私の活力になりました!」


 続けて柚葉は、話す。


「多分、それは私だけじゃなくて他にもたくさんいると思います。炎上が目立っているだけで、私のファン友達には、少なくともいます」


「やっぱり、いい子の周りにはいい子が集まるんだね」


「みんな、双葉さんから勇気をもらって、敬意を持って推しているんです」


「うん。そんなの分かってるよ。でもね、そんなの全体に比べたらこれぽっちしかいないんだよ。それは柚葉ちゃんも知ってることでしょ?」


 グラスに滴る雫を見つめながら、双葉は言う。


「でもっ!そんな人を導ける才能を、勇気を与えられる才能を、ファンとして、そしてまだ浅いですが友達として、表に出さないのはもったいないと思います……」


 断われると思ったからか、柚葉はバンと机を叩き声を張る。

 この意見に関しては、俺も同感だ。


 双葉の才能をこのまま腐らせるのはもったいないと思う。世の中では1000年に一人の逸材と呼ばれているくらいだしな。


 アンチなんてものは、表に出れば絶対に付きまとうものだ。逆に言えば、ファンも付く。

 いいファンか悪いファンかはひとまず置いておいて。

 しかし、これらを決めるのは全て双葉だ。


 俺は、助言はするが決めつけはしない。

 双葉が何をしようが、何を選ぼうが、俺はそれを全力でサポートするだけだ。


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