第29話 我慢してほしいかな?


「これ、全部双葉さんの奢りでいいんですかぁ~⁉」


「いいよぉ~! たらふく食べちゃってぇ~!」


「やっぱこうなるんだよな」


 一時間ほど経過し、俺達は双葉が行きつけの飲食店に運んでいた。

 もちろん個室で周りの目が気にならない場所。

 アイドルをしている時から、双葉は店主とは仲が良く、アイドルを辞めた事情も理解してくれているらしい。


 そして、俺達は親睦会ということでここにいるわけだ。


「お前、奢りって羽振りがいいな」


 俺はそう言いながらも、頼んだポテトを食べる。


「まぁ、私アイドル辞めたって言っても腐るほど稼いでたから貯金はめっちゃあるんだよね~」


「流石元美少女アイドル」


「元なのは『アイドル』だけだよ? 今も『美少女』だから! そこ勘違いしないでくれない⁉」


「んなの間近で見てる俺が一番分かってるだろ」


 赤らめる頬を膨らませる双葉の頭を優しく撫でる。


「ちょっと、目の前でイチャイチャしないで貰えますか」


 そんなカップルのやり取りを、ジト目で見てくる柚葉。


「すまんな。俺達付き合ってるからこんくらい許してくれよ」


「他でやる分にはいいんですよ。ただ、私の前ではやらないでください!」


「なんでだよ」


「嫉妬するからに決まってるじゃないですか‼」


「……なんかごめん」


 リア恋まではいかないだろうけど、相当柚葉も双葉に気があるのだろう。

 恋愛感情とかではなく、尊敬とかという意味合いで。

 目の前で崇めてる人が男とイチャイチャしているのを見るのは、同性であっても嫌なのだろう。


 なんていうか、汚されるとかそうゆう感情が生まれるに違いない。


「柚葉ちゃん? 先に言っておくけど、私がアイドルを辞めたのは可児くんと堂々とこうやってイチャイチャしたいからなんだよ?」


 正面に座る柚葉に、小首を傾げながら言う。


「それは……会見でも言ってるのちゃんと見てるので分かってます」


「だからさぁ? なんていうんだろ、柚葉ちゃんの気持ちも分かるけど、これまで我慢してきた分私は可児くんとイチャイチャしたいの」


「それも分かってます。双葉さんはこれまでずっと我慢してきた事とか、全部あの会見を見て伝わってきました」


「汲み取ってくれてありがと。やっぱ柚葉ちゃんは優しんだね」


「私は、ただのファンですから。双葉さんの私生活に口出しはあまりしたくないです」


「ううん? 私と柚葉ちゃんはもう友達じゃん。だから少しくらいは言ってくれてもいいんだよ?」


「えぇ?」


 予想外の発言に柚葉は力の抜けた声を漏らす。


「でも、ちょっとだけ我慢してほしいかな?」


 口元に人差し指を置いて、微笑む。

 うわ、なにこのエモいセリフ。改めて聞くと凄くいい。


 愛されてる感がものすごく伝わってくる。本当に、いい彼女を持ったな俺は。

 今日は燃えるような夜になりそうだ。


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