第27話 付き合った理由


「ま、一件落着したってことだな」


 フゥっとため息を吐く俺。

 大惨事ではなくてよかったな。もしこれでキチガイファンが双葉を襲ってたとかだったら洒落にならない。


 襲われたには変わりないが、犯人が優良ファンの柚葉で安心だ。

 和ましい2人をにこやかに見ていると、


「まだ私聞きたい事あります! 双葉さんじゃなくてあなたに!」


 鋭い目をしながら俺をビシっと指差す。


「え、俺?」


「そうです! 山ほどあなたには質問がありますよ!」


「別に喋ることなんてないと思うんだけど……」


「腐るほどあるに決まってるじゃないですか! 逆にないと思いましたか⁉」


「だって俺と双葉の関係は説明したし、もう十分じゃないか?」


「どこがですか!」


 勢いよく立ち上がると、俺の方へ近づき壁ドンをしてくる。


「ちょ、ケンカはよくないと思うんだけどな―俺」


「私、あなたから色々聞くまで逃がすつもりはありませんから」


「話せることは全部話すつもりだけどさ? まずこれをどうにかしてほしいなー」


「嫌です。絶対逃げるので」


「逃げないからさ? ほら、双葉の隣座った方がいいんじゃない? せっかくの機会だし」


 助けを求めようと双葉の方を見るが、不機嫌そうな顔を背けられてしまった。

 こんなロマンスの欠片もない壁ドンで嫉妬してくるなんて可愛すぎかよ。


「そ、それもそうですね……双葉さんにくっ付いていた方が冷静に話が出来るかもです」


 コクコクと頷くと、ゆっくり双葉の横へ座り、腕に抱きつく。

 やっぱすごい双葉パワー。


「んで? 俺に何を聞きたいの? 柚葉さん」


「別に柚葉でいい。私が聞きたいのは2人が付き合った経緯です! 一番気になりますよこれ!」


「あー、まぁ気になるよな」


「早く教えて下さい2人の馴れ初めを!」


 人気美少女アイドルと、そのクラスメイトがどうやって恋人に発展するのか。

 誰しもが気になるであろう。

 ここでみんながよく想像するのが、放課後に教室に残っていた双葉と鉢合わせて意気投合するみたいなラブコメ展開であろうが、実際はそんな展開存在しない。


 俺と双葉の出会いはもっと単純で、入学した時に初めての席替えで隣の席だったからだ。

 俺的には、こっちのほうがラブコメ展開だと思うけどな。

 この一年でよくここまで来れたよな。


 付き合ったのが去年の10月頃、今が9月の半ばということもあり、双葉と俺は交際が一年目を突破しようとしている。

 この一年弱、というかここ1ヵ月が濃厚な日々だった。

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