第23話 トラブル?

 最初は愛想笑いで聞き流しているだけの双葉であったが、ついに堪忍袋の緒が切れたが、


「アイドルをやめた関連の事を話すつもりはないし、聞かれても答えないから。事務所はもうやめてるから口止めされてるってわけでもないし、これは私の意思」


 囲まれている中から、ハッキリとそう聞こえてくる。

 しかし、その次の言葉でそれは演技だと確信する。


「でもみんなとは今まで通り仲良くしたいから、普通に接してくれると嬉しいな」


 コロッと声色を変え、声だけでも笑顔を浮かべているのが想像できる。

 嫌われるかもしれないから、先に理由を説明。それから仲良くしようとみんなとの仲は変わらず居たいと提案。

 そこに双葉の演技力が加わる……完璧に手玉に取っている。

 何十万にものファンをこれまで騙していたんだ。このくらい造作もないことだな。

 その証拠に、


「するする~!」「もちろん!」「そんなの決まってるじゃ~ん!」


 と、場の空気も一気に和んだ。

 それからのこと、不安であった会見明けの登校であったが、このまま順調に学校生活は進んでいった。


 授業を受け、お昼はクラスメイトと集まって食べる。

 朝から、放課後の今まで、何も変わらず双葉は学校生活を過ごしていた。

 心配していた俺も、ホッとしてあまり気には掛けていなかった。

 だがしかし、


『ちょっとヤバい』


 そう双葉から一件のメッセージが来たのは、ちょうど帰ろうと教室を出た時であった。

 授業が終わり、いつの間にか教室からいなくなっていた双葉。

 こっそりと帰ったのかと思っていたのだがそうではないらしい。


『何トラブル?』


 急いで返信すると、すぐに既読が付き、


『トラブルというかなんというか』『とりあえず校舎裏の倉庫に来て欲しい』『来れば分かる』


 ポンポンとメッセージが飛んでくる。

 文面的に、そこまでピンチではないっぽいな。

 呼ばれたからには行くしかないので、俺は小走りで校舎裏へと向かう。


 下駄箱で靴を履き替え、人気のない裏へと進む。

 普段は静まり返った校舎裏であったが、


「ちょ! 一旦離れよ?」


「嫌です! 私はこれまで我慢してきたものが爆発しました! もうだ天使ちゃんを離しません!」


 どこからか響く双葉ともう一人、女子の声。

 声がする方に向かうと、外階段の裏に辿りつく。そして俺は唖然する。


「嫌だぁ! もうだ天使ちゃんを失いたくないのぉ!」


 俺の目の先には、双葉に強引に抱きつく同じ制服を着た小柄な少女の姿があった。


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