第18話 優良ファン

「ほら見て? このガチファンの子私のグッズ全部燃やしてるよ?『時間の無駄だった』ってヤバっ」


 と、俺にスマホの画面を見せてくる。


「ホントすげーな」


 そこに表示されるのはアカウント名『ふゆ@フォーリン♡エンジェルだ天使ちゃん推し』のTwitterプロフィール。固定ツイートに載せられているのは、これまで集めていたものすごい数の『フォーリン♡エンジェル』のグッズや『だ天使ちゃん』のグッズを燃やしている様子だった。


「これとか結成した当時の初ライブのグッズだよ。相当古参だよこの人」


「他の投稿見る限りおじさんっぽいけど」


「あ~、多分この人毎回握手会の時にバッグにグッズをめっちゃ付けてくる人だ。このバッグ見覚えある」


「どんな人だった?」


「キモおじ」


「一番ダメなやつ」


「握手の時も時間ですよ~って言われてるのに手を離そうとしないし、挙句の果てにSPに外につまみ出される結果」


「ヲタクの民度を下げる代表的な奴だな」


「ホントそう……でも一人だけ凄くいい子がいたんだよね~。その子だけにはちゃんと謝りたいなーって思う」


 天井を見上げながらため息を吐く双葉。


「へぇ~、そんな堅実な子がいたのか」


 害悪なファンが目立っているだけで、堅実なファンもやはりいる。

 マナーや素行が悪いファンのせいで、マナーの良いファンが埋もれる。

 大体3~4割ほどは普通のファンで2~3割が良いファン。そして残りがダメな人種だ。


 そのダメな奴らのせいで、全体の評価が下がってしまう。

 この炎上だって、双葉を叩いている発言をしているものが拡散されて表に出ているだけで、心の底から悲しむ人や、双葉を応援する人だって多数いる。


「毎回ライブにも握手会にも参加してくれてる子なんだよね~。その子のTwitterはよく見てるから同い年か一個下っていうのは分かるんだけど~、どこの子なのかはさっぱり……」


「その子のプロフ見せてくれる?」


「いいよ~」


「だ天使ちゃんの天使……ね」


 アカウント名からしてガチファンなことが分かる。呟いていることも『今日のライブ最高だった~!』とか『握手会参加! だ天使ちゃんと手繋げちゃったし差し入れ受け取ってくれた‼』などと治安のいい事が分かる。


 最近のツイートだって『だ天使ちゃんやめちゃうの……? 悲しすぎる……でもだ天使ちゃんが決めたことなら私は応援するし彼氏さんと幸せになってほしい!』と優良ファンの代表とも言える発言をしている。


「ホント、この子だけには一回あって色々話したいんだよね~。イベントがあるごとに会うんだけど、いい子過ぎて好き」


「やっぱ、そうゆういい子の顔とかは覚えるんだな」


「もち! 名前はゆずはちゃんって言うんだよね~」


「名前まで覚えてるのか」


「この子が特別なだけで、あとはボチボチっていう感じかな? 大体いい子たちは覚えてるかなーくらい」


「この子、多分今の発言聞いたら発狂して喜ぶんだろうな」


 自分の最推しに認知されているんだ。ガチファンからしたら失神ものだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る