第11話 行動が早い

最寄りの駅から3駅で乗り換え。更に快速電車に乗り6駅すると双葉の会見が行われる場所の近くに到着する。


「流石有名人だな……」


高層ビルが立ち並ぶ都内屈指のオフィス街。

一般人が縁がない場所だな。


芸能人は仕事で毎日のようにこうゆう所に行くのが。羨ましいとは思うが、双葉の話を聞いているとそこまで羨むものではない。

アイドルというより、多分芸能界全般が大変だろう。


双葉から送られてきた住所の元へと歩く。

こんな大都会たまにしか来ないから少しくらい迷うだろうと思っていたが、


「目立つなこれ」


心配などは無駄であった。

会見が行われる会場の前には報道人がこれでもかとカメラを構え、辺りは騒然としていた。


テレビ中継をしていたり、週刊誌の人物らしき人が一眼カメラを構えていたり、素人の俺が見ても今日がどれだけ凄い日なのかが分かる。

ぞろぞろとビルの中に入っていくマスコミ陣の中に紛れ込み、俺も潜入する。


受付にて、事前に双葉から貰った入場許可証を見せ、疑われることなくすんなりと入る事ができた。


カメラも何も持ってないのに、よく入れたな。不審がられすらされなかったぞ。

人がいすぎてズボラになっている……ということはないだろうけど、不思議で仕方がない。

まぁ、無事に入れたことを幸運に思っておくとするか。


室内に入ると、案内に従い会見が行われる部屋へと移動する。

だがその前に双葉に連絡をしないと。


「すみません。お手洗い貸していただいてもいいですか?」


道中立っている警備員にそう言うと、列を離れてトイレへと向かう。

個室に入り、スマホを手に取ると双葉へと『着いた』と一言LINEをする。

既読が付くまで待機と思っていたが、


『今すぐ11階の奥から2番目の使用中って書いてある会議室来て!』


と、秒で返信が来る。


『どうやってだよ。警備員めっちゃいるんだが?』


『そこはガッツで来てよ! 私トイレ行ってる態でもう抜け出して待ってるから!』


『行動早いな』


ここからは潜入ミッションというわけだ。

これは行くしかないよな。流石に待たせているわけにはいかない。

覚悟を決めて俺はトイレを出ると、うじゃじゃと廊下を埋め尽くす報道陣に紛れながら上手く警備員の目を潜り抜け、11階へとエレベーターで移動する。


「ここは……いないみたいだな」


11階へ到着すると、警戒しながら廊下を歩き進める。

会見が行われる部屋があるのは7階だからか、この階には人が見当たらない。

そもそもこの階自体が会議室が並ぶフロアだから人がいないのか。


それに今日は会議などはないだろう。なにせアイドルの会見が下で行われるんだ。

関係者以外立ち入り禁止となっているに違いない。


なるべく足音を立てないように移動し、双葉がいる部屋の前へ到着する。

ゆっくりとドアを開けてて中を覗き込もうとすると、


「えっ――」


中から手を強く掴まれ、室内に引っ張り込まれる。


勢いよく閉められたドアの方を見ると、鼻息を荒くした双葉の姿があった。

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