第12話 全然ちょっとじゃない
「ちょ、え、ガチカッコイイんですけど⁉ なにこれモデルか何かですか⁉」
床に倒れる俺の手を握りながら双葉はキラキラとした目を向けてくる。
「お前、興奮しすぎじゃないか?」
「当り前じゃん! 滅多に見られないじゃんスーツ姿なんて!」
「だとしても、ここまでグイグイ来るとは思わなかった」
何か俺に変化がある度に興奮する双葉だが、ここまでテンションが最高潮になっているのは初めてだ。
髪型とか、普段しない服の系統とかの時はもっと静かなのに。
「いやぁ~、スーツはいいね。最高すぎる」
両手を合わせて、俺を神様のように拝む。
「当分見れないだろうから存分に見てくださいな」
「舐め回すように見させてもらうね」
今にもよだれを垂らしそうな感じだ。
ていうか、この会議室2人にしては大きすぎる気もする。
中央が開けられた楕円型のテーブルに、椅子がその周りを囲んでいる。
20人は収容できそうな大会議室だ。
「もっといい場所なかったのか? 流石に広すぎ」
椅子に腰かけると、ネクタイを解きながら言う。
「入れる階でいい場所がここしかなかったんだよ~。ここもそうだけど他の階は立ち入り禁止とかになってるし、侵入しやすいのがここだったの!」
「もっと狭い部屋は?」
「ない!」
「ないのかい」
もっと狭い部屋の方が安心な気もするが、ないのなら仕方がない。
「ここ防音だし、この階には今日は誰もいないから安心してね!」
と、サムズアップする双葉だが、
「警備員とか来てもおかしくないぞ? 防音なのは嬉しいけど」
いくら誰も来ないとはいえ、防犯上パトロールが来てもおかしくない。
どっかの『だ天使』ファンが会見後の双葉を襲う為に隠れているかもしれないし、はたまた俺達みたいに密会をしてるからかもしれないからな。
「警備はみんな下に待機してるってマネージャーから聞いてるから大丈夫! 絶対にこの階には来ないって言ってた!」
「お、おう」
意外に抜かりないらしい。
しかし、ここに長居してもリスクが増えるだけだ。それに、俺が会場に入れなくなる可能性もある。
「スーツ姿見たなら俺、行っていいか?」
目的は終えた。双葉と一緒にいたい気持ちは山々だが、これ以上危険を増やす必要もない。
「えぇぇ~! まだ待ってよぉ~! あとちょっとだけ可児くんと一緒に居たい~!」
帰ろうとする俺に、双葉は手を掴んで止める。
「ここでわがまま言っても危ないだろ? 帰ったら一緒に居てあげるから」
「あとちょっとでいいからスーツ姿の可児くんに元気貰いたいの~!」
「あとちょっとってどんくらい」
「会見が始まるのが1時間後だから~、あと45分は暇だね」
「全然ちょっとじゃねーじゃんか」
45分は流石に居すぎだから……せめて10分くらいは一緒に居てあげるとするか。
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