第9話 会見当日

「おい、今日露崎さんの引退会見俺の家で見ようぜ」


 一週間後の放課後、そう俺の肩を叩きながら言ってくる宇留間。

 今日は、双葉の引退会見が行われる日。

『フォーリン♡エンジェル』のファン、いや、全国民が待ちに待った日だ。


「わりー、今日先約があるんだよな」


 こんなにも双葉の今後に関わるものを、友人とポテチを食べながら見るほど俺はダメ人間ではない。

 もちろん、俺は会見が行われている生現場に行く。

 本当なら、関係者やマスコミしか入れないのだが、双葉の権限……というか無理やり入場を許可された人に配られる名札をゲットした。


「なんだ~? お前こんな大事な日に予定あるのか~?」


 うれうれと俺の脇腹を肘で押してくる。


「残念な事にな。お前と会見を見るより大事な用事が俺にはあるんだよ」


「これより大事な事なんてあるか? 露崎さんの引退会見だぞ? 見るしかないだろ!」


「まぁ、見る事には見るから安心しろ」


「しゃーない。俺は一人で寂しく見ることにするか」


「そうしてくれ―――って俺もう行かないと」


 時計を見ると、時刻は夕方4時。

 会見開始まで2時間ほどあり、行われる場所まで一時間ほどで行ける距離なのだが、一度家に帰らなければならない。

 同級生とバレないようにスーツを着てから行くからな。


「んじゃぁ、また学校で」


「お前もちゃんと配信見ろよな~」


 宇留間の声を背中に、俺は教室を出る。

 駐輪場に向かい、自転車にまたがると、自宅まで漕ぎ始める。


 大体、家まで自転車で20分ほどの距離。めんどくさがりの人であったらバスや電車通学を選ぶ距離なのだが、ママチャリではなくロードバイクなのでさほど苦ではない。


 今日の会見の事を考えている内に、自宅へ到着した。

 あとは、スーツに着替えて電車移動。


「似合ってるな」


 自室にて、スーツに着替えた俺は鏡の前で呟く。

 親からのおさがりで貰ったスーツだが、我ながらよく似合っている。


 これだったらまず高校生には見られないし、マスコミと見られてもおかしくない。

 自惚れて鏡の前でポーズを撮っていると、

 テーブルに置いていたスマホがブルブルと振動する。


「なんだ電話か」


 と、スマホを取り、画面を確認する。


『なんだ、急に』


『いやぁ~? 会見前に可児くんの声聞きたいな~って思っただけだよ?』


 電話の主は双葉であった。


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