第8話 休み

「来ないな露崎さん」


 教室にチラホラとクラスメイトの姿が見え始め、もうそろそろ双葉が現れてもいい頃合いだ。

 いつもならホームルームの10分前には席に座っているが、その時間を過ぎても未だに双葉は教室に居ない。


「ていうか、やっぱ露崎さんの話題で持ち切りだな」


 あらゆるところで聞こえる話し声。

 そのほとんどが、双葉がアイドルを引退する事と恋人がいたということの話題で溢れている。


 やはり影響力が凄い。

 学校で誰かに彼氏ができたとしても、仲間内で盛り上がるくらいで済むし、それが美少女なら少し話題になるくらい。

 しかし、人気アイドルの双葉ともなると、クラス、いや学校中がその話題でいっぱいになる。


 まぁ、世間騒がれるくらいだし予想していたことだが、こうやって目にすると凄い光景だ。

 そんな事を考えていると、ポケットに入っていたスマホが振動する。


「ん、誰からだろ」


 スマホを取り出し、画面を確認する。


「……」


「誰からだったんだ?」


「あ、あぁ友達だ」


 送り主は、みんなの注目の的である双葉からであった。

 その内容は『今の状態のままで学校行ったら大惨事になるから一週間くらい学校休むね~、まぁ会見した後に行ったとしても大変なことになると思うけど……大丈夫っしょ』


 と、サムズアップをするスタンプと共に送られて来た。

 これが最適解だな。


 下手に動いて何か問題を起こすより、静かに過ごした方がダメージは少なくなる。

 しかも、相手は高校生だ。何の躊躇もなく質問をしてくるだろう。


 匿名で自己中をバラまくネットよりは幾分マシだろうが、だとしてもリアルで言われるのは精神的にくる。


『とりま、今日家寄っていいか? どうせもう仕事もないでしょ?』


 双葉に送ると、すぐさま既読が付き、


『いいよ~! なんなら毎日来てもいいくらい!』


『なら、行ける時は毎日行くようにするよ』


『やったぁ~! 可児くん大好き!』


 仕事という障害がなくなったという事は、一緒に過ごす時間がこれでもかと増える。

 ……なんか複雑な気持ちだが嬉しいな。

 アイドルを引退すると聞いた時は唐突過ぎて困惑していたが、一日経って冷静になり双葉との時間が増えると考えると、やめて正解だとも思える。


「気長に待とうや。どうせすぐ来るだろうし」


 スマホを置き、自分の席に着く。


「……そうだな」


 宇留間も納得したようで、静かに席で双葉が来るのを待機する。

 しかし、いつまで経っても双葉の姿は教室には現れず、担任から『露崎さんは仕事の為、一週間ほど学校を休む』と言われたのは、10分後のことだった。


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