第3話 王宮お抱えの魔導士
一週間後――
トレーユの知り合いだという長いひげを生やし腰の曲がった魔道士がやって来た。
何でもこの卵は、何の卵か分からず調査の為、この魔導士に託されたものだったのだそうだ。
しかしこの村の近くにある魔導士の研究所の中はあまりに汚かった為、ゴミと間違えられうっかり廃棄されてしまい……魔導士は片手間にこれを探していたらしい。
研究室が汚すぎてうっかり廃棄。
片手間に捜索。
なんともこの国の魔道研究の行く末が不安になる話である。
ドン引きしている俺などまったく意に介さず
「なんとあの卵は火竜の卵であったか。そうか、この色は溶岩に擬態しておったのか」
裏山の洞窟入り口、魔導士は卵の殻と火竜を見比べて一人興味深そうにウンウン頷いていた。
「それで? どうやって孵化させた??」
魔導士の問いに、アリアがあっけらかんと答える。
「タマゴサンド作ろうと思って茹でたの」
「茹でた?! これを食べるつもりだったのか???」
アリアの答えが予想外過ぎたのだろう。
トレーユはそんな叫ぶような声を思わず上げた後、こみ上げてくる嘔吐感を抑える様に口元を抑えた。
うん。
トレーユのリアクションを見るに、どうやら魔王討伐の際に喰うに窮して魔物を食べるような事態はなかったらしい。
ヨカッタ、ヨカッタ。
「茹でるかぁ! そうか火山の河口付近を好んで住んでいたと言われる魔物だもんね!! 普通の温め方では温度がたりなかったのかぁ!」
遠い目をする俺だけでなく、
……あれ?
「なぁ、あんた、なんだか妙に声だけ若くないか??」
俺がいぶかしむ視線を送れば
「おっと、しまった」
そう言って、すぐさま観念したのかしゃべり方はそのまま魔導士が茶目っ気たっぷりに肩を竦めてみせた。
「老人の姿の方が何かと信用してもらいやすいからね、仕事で外に出る時はこの姿を多用してるんだ。別に害意あって騙そうとしたわけじゃないから許してくれ」
そう言って魔導士がパチンと指を鳴らした瞬間だった。
腰の曲がった魔導士の姿がパッと消え、代わりにそこにはトレーユと瓜二つのイケメンが楽し気な顔をして立っていた。
「こっちがアナタの本当の姿? トレーユと双子なの??」
アリアの驚きつつ、どこか楽し気な声に、トレーユが実に嫌そうに目元を引きつらせながら首を横に振り言った。
「僕に双子の兄弟などはいない。これの名はカルル。『変身』のスキルを持つ王宮お抱えの魔導士だ。それなりに長い付き合いなのだが、僕もこれの本当の年や姿は知らない」
長い付き合いにも関わらず、正体を明かしてもらえない事に少し拗ねているのだろうか。
つまらなさそうな声を出すトレーユにカルルは笑って言った。
「どんな姿をしていても何故かトレーユだけは私の事を見分けられるのだから不便は無いだろう?」
「見分けるのに不便はないが……。それよりも、僕の姿を使うのは止めろと言っているだろう。この姿をしている状態で無駄にいろんな人に笑いかけないでくれ。勘違いした令嬢方に詰め寄られ心底迷惑してるんだ」
トレーユの話を聞いて、トレーユの顔をしたままカルルが吹きだした。
いつも仏頂面のイケメン王子(偽者)が不意に見せた無邪気そうな笑顔の破壊力は、確かに凄まじい。
令嬢方が
『滅多に笑わないトレーユ様が私にだけ微笑んでくださった!!!』
と勘違いして、鼻息荒く詰め寄ってくるのも納得だ。
そんな事を思いながらちらっと横目でアリアの様子を窺えば……。
アリアは王子様スマイルなどには全く興味ないようで、無邪気に甘える火竜の首を掻いてやっていたのだった。
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