第2話 ○○○○王子
その日の夜遅く、いい加減寝ようと思った時だった。
「キュアーーー」
ベッドに上げて欲しいと、火竜が俺の足元で鳴いた。
ラグの上にタオルを敷いた寝床を作ってやったのだが、それではダメらしい。
凶暴な火竜と同じベッドで寝るのか???
コイツがくしゃみした瞬間にうっかり火を噴いて顔を丸焦げにでもされたらかなわないのだが??
繰り返し俺のベッドに上がってこようとする火竜を抱き上げて寝床に戻す。
ベッドとタオルの間を往復する事十数回。
「……しょうがないなぁ」
アリアによく似た金色の瞳に負けて、抱き上げてベッドの上に降ろしてやれば、火竜が嬉しそうに喉を鳴らした。
火竜はしばらくベッドの上をあちこち歩き回った後で、俺の鳩尾の上に立って満足そうに立った。
小さな前足が鳩尾に食い込んで微妙に痛い。
「おやすみ」
そう言って火竜を枕元に降ろして毛布を被る。
しかし、火竜はすぐさま俺の胸の上に戻って来た。
寝返りを打てば、器用に後ずさりながら玉乗りの要領で俺の上に居座り続けている。
「まぁ、いいか。暖かいし」
諦めて俺がそんな独り言を漏らせば、そうだろうと言わんばかりにまた火竜が子猫の様に鳴いた。
◇◆◇◆◇
そうやって、しばらく火竜を家の中で飼っていたら、火竜は想定外のスピードであっという間に大きくなってしまった。
仕方がないので、家のドアから出られなくなる前にと火竜を裏山の洞窟に匿うことにする。
しかし、火竜が俺を恋しがってか酷く鳴く為、すぐさま
「裏山にお化けが出る」
との噂が立ってしまった。
どうしたものかと頭を抱えていたときだった。
村の子ども達が
「この村に王子様が来てるのよ!!」
と教えてくれた。
全く。
最近の若いヤツは、ちょっとイケメンがいると何でもかんでも『王子』と持て囃すムーブがあっていただけない。
そんな事を思いつつそちらを見れば、なんとそこには本当の
王都からこの村まで歩き出来たのなら二日近くはかかっただろうに。
トレーユは相変わらずまるで神殿にでもいるかのように、白いシャツのボタンを一番受けまでキッチリ止め、紺地のローブをカッチリ羽織り、白い手袋をビシッとつけていて……。
控えめに言って周囲の村人から浮きまくっていた。
「アリア、ハクタカ。息災そうで何よりだ」
そうして、俺とアリアに気づいたトレーユが、やはり以前と何ら変わらぬ生真面目そうな顔をしてそんな事を言った。
「トレーユも元気そうだね。ローザとレイラも変わりない?」
アリアがトレーユと気さくに言葉を交わすのを見ていた時だった。
ギュワアァァァァァ!!!
風に乗って、俺を恋しがる火竜の鳴き声が村に届いてしまった。
「魔物か?!」
周囲を警戒し剣の柄に手をかけようとしたトレーユを慌てて止める。
「実はさ、少し困ってて……」
事情を話し、火竜とその卵の殻を見せれば。
思いもかけなかった事にトレーユは
「この卵の元の持ち主に心当たりがある」
そう言って。
すぐさまどこかに手紙を書いた。
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