第4話 火竜の名前
「へー! 撫でることも出来るんだ。いやぁ、火竜が人に懐くなんてね!! 竜にも刷り込みがあるなんて初めて知ったよ。」
人見知りして目を必死にそらそうとする火竜に構わず、カルルがグルグル火竜の周りを周りながらあれこれ観察している。
「それで?
「えー!!」
カルルの申し出にアリアが不満の声を漏らした。
「あれ? 違うの?? でもここじゃ飼えないだろう。きっともっと大きくなるよ。餌だって困るだろう」
「でもぉ……」
実に不満そうに口を尖らせたアリアを見て、
「じゃあ、私のスキルで小っちゃくしてあげようか?」
カルルがそんな思いもしなかった事を言った。
「そんな事出来るの?」
目を輝かせるアリアに向かって
「まっかせなさーい!」
カルルが得意気に笑うと、またパチンと指を弾いた。
すると、あっという間に火竜がスルスルと縮んでいき、気づいた時には火竜は再び子猫サイズに姿を変えていた。
火竜もこの姿が気に入ったのだろう。
尻尾を左右にブンブン振ったかと思えば、サッと状態を屈め、次の瞬間には再び子猫の様な仕草で俺の肩に飛び乗って来た。
「サラマンダーか、悪くないな。名前はどうするんだ?」
トカゲ化した火竜を見たことにより吐き気から復活したトレーユが、大仰に頷きそんな事を言った。
「名前かぁ」
「タマゴサンドは??」
アリアの言葉に、トレーユがまた瞬時に口元を抑える。
結局悩んだ挙句、名前はシューに決めた。
異国に伝わる炎の妖精の名を短く縮めたものだ。
「あぁ、キミは随分面白いスキルを持っていたんだね」
突然またパチンと指を鳴らして、トレーユから俺に姿を変えたかと思えば、カルルがそんな事を言い出した。
「カルルは、姿を変えた者の記憶を見る事が出来るんだそうだ」
トレーユにそう言われて、勝手に記憶を盗み見られた不愉快さに眉を顰める。
「スキルの名は……『親の七光り』? また面白い名前を付けられたもんだな」
またしてもカルルが吹きだした。
本当に失礼なヤツだ。
まぁそういった、俺のスキルに関するリアクションには慣れてはいるからいいが。
「それにしても、惜しい事をしたね。彼がいれば魔王討伐はもう少し楽だっただろうに」
カルルの話にトレーユが頷く。
なんだ、また
「そうなの? ハクタカはやっぱりすごい人だったんだね」
何も覚えていないアリアが嬉しそうに笑った。
俺がスキルを失った経緯を知ればアリアが気に病むだろう。
だから、
『余計な事は話すなよ』
とトレーユとカルルを目で牽制すれば、二人はアリアにバレないよう小さく頷いてくれた。
その時だった――
突然、物凄い吹雪が俺達を襲った。
季節は初夏を迎えようかというこの時期に吹雪だなんておかし過ぎる。
右腕を
そしてそれらの不吉さに呼応するかのように、どこからか魔物の咆哮が不気味に響いてきた。
「ひとまず洞窟の奥に避難しよう!」
トレーユの言葉に従い、皆で洞窟の奥に潜り身を寄せ合うようにして吹雪をやり過ごす。
******
半刻程が経ち――
ようやく吹雪が収まった気配を感じ、急いで洞窟を出て積もった大量の雪を掻き分け山を登り周囲の様子を探れば……。
辺りは見渡す限り、すっかり季節外れの深い雪に覆われてしまっていた。
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