第14話【最終話】

マークはフィリップとビジネスの話をしていたそうだ。話がまとまり、フィリップは先に帰った。


フィリップの両親は、権力を失った。これから無駄遣いしようとしても、フィリップが止めるだろう。場合によっては幽閉するとキッパリ言うフィリップは、甘く優しいだけの王子様ではなくなった。


「あの人はこれからどんどん成長する。出した金は倍以上になって返ってくるよ」


「そうね。フィリップは素晴らしい王になるわ。さて、マーク」


「ん? どうした?」


「種明かしはまだ終わってないわよ。どうしてフィリップが変わった事を言わなかったの?」


「……あー……それはだな……」


マークの顔が赤く染まる。

目を逸らして、部屋をウロウロし始めた。


その瞬間、ピンときた。

マークの事だからなにか打算的は理由があるのだと思ったけど、違ったんだわ。


「ねぇマーク、わたくしの事、好き?」


「出会った瞬間から、俺はずっとマーガレットが好きだ」


「あの時、ちょっと話しただけよね?」


「あん時のマーガレットは天使みてぇだった。今は女神様だな。マーガレットのおかげでオレは立ち上がれた。親父の店も取り返せた。だからさ、金を稼いでから、これを取り返したんだ」


マークが執務机から出したのは、わたくしがマークにあげた靴だった。


「使われてたから痛んじまったけど、間違いなくマーガレットの靴だ。これを取り戻してから、困った時や辛い時は眺めるんだ。そしたら、なんだか元気が湧いてくる。いつかマーガレットの役に立ちたい。そう思って頑張ってきたんだ」


「そんなに愛してくれてたなんて嬉しいわ。フィリップの事を内緒にしてたのも、わたくしがフィリップの元に戻るかもしれない。そう思ったからなのね」


「……ああ。種明かしは終わりだ。なぁマーガレット、俺と結婚してくれ」


「良いわよ。マークと一緒なら、楽しく暮らせそうだもの。恋愛小説を読むより、マークと過ごす方が楽しいわ。ところで……フィリップに渡した本、写本してあるんでしょう? 見せてちょうだい」


「なんでわかった」


「所有してる事がバレるだけでも厄介な代物だけど、知識の宝庫だもの。損するのが大っ嫌いなマークがあっさり渡すなんて、おかしいと思った。大丈夫。フィリップは騙せてるわ。彼は良い人だもの。例え騙されたと気が付いても、黙っててくれる。多少無茶な取引は求められるかもしれないけど、それだけ強かな王になれるのなら、素晴らしい顧客になる。無茶な取引も、先行投資になるわ」


「ぷっ……! ちょっと待て……。腹が痛え……! マーガレット、最高すぎんだろ」


それから、すぐにわたくしはマークと婚約を結んだ。


独立した瞬間わたくしに婚約が殺到したけど、既にマークと婚約していたから問題なかった。


お父様やお兄様は忙しそうだけど、以前より自由に動けて生き生きとしている。


マークは、三年間だけ格安で物品を売る契約をフィリップと結んだ。フィリップは恐縮していたけど、即位の祝いだと言われて、素直に受け取った。これで、民が飢える事はない。王家に忠誠を誓う貴族達も増えるだろう。


結局、独立した領地はうちだけだった。

屋敷を大きくして、それなりの城を建てた。


費用は、マークとお父様が半分ずつ出したそうだ。


半年後、わたくしは結婚して家を出た。今日は、久しぶりにフィリップ達に会いに行く。


シルビア様は、旅行から帰ったら様々な事が変わっていて大変驚いたそうだ。フィリップは改めてシルビア様にプロポーズして、二人はめでたく結婚した。


威張るシルビア様のご両親を叱ったのは、シルビア様だった。


シルビア様は実家と縁を切り、フィリップの両親はお金を使わないよう幽閉され監視されている。愛妾は逃げた。無駄なお金は使えないと、二人まとめて閉じ込められているらしい。


マークは、フィリップに投資したお金が返ってくるようになってご機嫌だ。


わたくしもマークと一緒に商品開発をしている。刺激の多い毎日はとても楽しい。喧嘩もするけど、マークと過ごす日々はとても幸せだ。


最近は、恋愛小説を読んでいない。

旦那様のと日々が、恋愛小説よりも甘いのだもの。

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