第12話
年に一度、貴族全てが集まり国王陛下に謁見する。そこで、お父様とお兄様と一緒に婚約破棄を申し出た。しっかり根回しをしたし、規定通りの違約金を払ったので問題なく受理された。
「……仕方ない。息子にも非があるからな。しかし、そちらからの申し出だ」
「分かっております。我が家の財産はほとんどなくなりますが、娘の幸せには代えられません。違約金をご用意しました。お納め下さい」
「うむ。確かに受け取った」
マークは、王妃様に呼び出されているらしい。マークの出した違約金はすぐにマークのところに返ってくるだろう。
年に一度の謁見は、いつもは国王陛下が威張るだけなので十分で終わる。遠方の者は欠席したり代理を立てたりするのだが、今回はほとんどの貴族が集まっている。
国王陛下が何を言うか、高位貴族はみんな知っているし、下位貴族も知ってる者は知っているからだ。
「わしはもう疲れた。退位する。全てを息子に譲る。今この瞬間から王はフィリップだ。良いな?」
集まっている貴族が拍手をし、フィリップの即位は承認された。
「では、あとはフィリップに任せる。ワシは隠居する」
フィリップに王冠を渡すと、元国王陛下と王妃様は違約金を持っていそいそと謁見室を出て行った。用意されていた簡素な戴冠式が終わり、フィリップが国王となった。
多くの人に祝福されているフィリップの隣には、誰もいない。シルビア様が帰って来るのは、明後日なのよね。
こんなにスピード決定した理由は2つ。
ひとつは、さっさと退位したい国王陛下の希望。何もしない国王より、若くても仕事をする国王の方が良いという周りの思惑も一致し、反対意見はひとつも出なかった。
もうひとつは、国が貧乏過ぎて他国との交流がないから。他国に報告する必要がなく、経費削減の為元々予定していた年に一度の集まりで退位と即位を発表した。
事前に高位貴族に根回しをしていたので、フィリップの即位はすぐ決まった。
下位貴族には知らされてなかったので驚いている者もいるが、察していた者も多いので貴族達は落ち着いている。
王が変わる時に一ヶ月夜会を開き続ける国もあるらしいが、うちの国がそんな事をしたら間違いなく破産するわ。
っと、もう自分の国ではなくなるのだったわね。
「皆、祝ってくれてありがとう。まず最初に君たちに伝えたい事がある。マーガレット、前へ」
「はい」
「僕とマーガレットは、結婚する筈だった。だけど僕の不義理で婚約が解消された。ハリソン公爵家は慰謝料を払ってくれたけど、父も言っていた通り、悪いのは僕だ。本来なら王家がハリソン公爵家に慰謝料を払わないといけない。だけど、皆も知っての通り王家にそんなお金はない。だから、マーガレットは僕の為に泥を被ってくれた」
……フィリップの発言に、驚いた。
本当なら、ここでお父様が違約金を払い金がないので税金を払えないと訴える予定だったのだ。フィリップはそれなら独立しろと命じて、独立が成立するというシナリオだった。
「ハリソン公爵から独立したいと申し出があったので承認する。他の貴族達も、独立したい者がいれば明日中に申し出てくれ。無条件で承認する。だが、役人の雇用は守らないといけない。領地に応じて、城の役人を引き続き雇ってもらう。これが条件だ」
「なっ……! そんな事をしたら娘は……!」
「リース伯爵も、独立したければすれば良いぞ」
大好きなシルビア様の父上なのに、フィリップの態度は冷たい。あれ? フィリップってこんな人だったかしら。
そういえば、最近フィリップの目つきが変わった気がする。しっかりしてきたとは思ってたけど、それだけじゃない。
なにか……違う。ふと、フィリップのタイピンを見ると、美しく輝いたダイヤモンドで出来ている。これは……形は違うけどマークが見せてくれたタイピンだわ。
わたくしが頭を回転させている間にも、フィリップの話は続く。
言葉を失ったリース伯爵が黙り、貴族達がみんな驚いている。謁見室は水を打ったように静まり返った。フィリップは王に相応しい笑みを浮かべ、周りを威圧した。
「どんな宝石よりも輝いているマーガレットの煌めきを曇らせたのは我々、王家だ。僕ができる詫びはこれだけだが、マーガレットの幸せを祈っているよ。さ、僕の話は終わりだ。皆、明日までに自分達の行く末を考えろ。独立したい者は歓迎する。これから良い外交関係を築かせてくれ。独立しないなら、王家に忠誠を誓え」
フィリップの言葉で確信した。
フィリップとマークは、繋がってるんだわ。
あの男……!
身に着けた指輪を押さえ、怒りを鎮める。マークの意地悪な笑みが頭に浮かぶ。このあと絶対、問い詰めてやるわ。
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