第9話 焦慮の脱出 五
長々と語られ、本当に耳を塞ぎたい。しかし、重要な情報を仕いれられる可能性に気づいた。
「どうやって警察から逃れた?」
「そりゃあ、動画のアカウントは消してスマホも初期化……」
「その辺はいらない。博尾さんが拾ってくれるとわかってから、ここまでどうやってたどりついた?」
「レンタカーを乗り捨ててきたよ」
「なら、巣出村を知っていたんだな?」
「おいおい、知ってるもなにも有名な話だぜ」
「有名?」
図らずも、会話の主導権が鈴木に渡った。
「ほんとに知らねえの? 巣出村。神捨てさえ成功すればなんでもチャラにしてくれるんで、血眼になってる奴がいるよ。あ、俺もか」
鈴木は唇を歪ませた。
「どうせただの都市伝説なんだろ」
「ちげーよ。ほんとに助かった奴、何人もいるよ。新聞とかで名前顔写真のでた犯罪者が無罪放免になったって」
「たとえば?」
「二、三か月前に佐藤 恵って地下アイドルが殺人事件やからかしたんだけど、不起訴って発表されたよ。そのあと、佐藤が動画で神捨てのこと喋ったんだ。博尾さんのメアドまで教えてたぜ」
「仮にそれが正しいとして、じゃあ佐藤って人もバーチャルに誰かを殺したのか?」
「そうなんじゃね? 知らねーけど」
無罪放免のメカニズムが根本から狂っている。鈴木が嘘をついているとも思えない。なら、だまされているということか。いずれにしろ博尾に質問しないと意味がない。
道のりを消化していくにつれ、炎上する店は遠ざかった。代わりに一軒のゲームセンターにいきついた。平屋だが、端から端まで歩いて二、三分はかかりそうな広さだった。長細い看板が正面の壁に取りつけてあり、青地に緑色の字で『ゲームセンター 星からきた魂』と書かれている。
「なぁんだ、厨二趣味むきだしだなぁ」
軽く見ているのを隠そうともせず、鈴木は両手を頭のうしろで組んだ。
渕山は黙ったままだった。こどもだましで陳腐な名前かもしれないが、問題は中身だ。まさか、鈴木とゲームで遊べというのではないだろう。
なにが待ち受けていようと、進むしかない。渕山は率先して自動ドアをくぐった。
『いらっしゃいませ! ようこそおいで下さいました。当店は体感ゲーム専門店としてお客様に楽しんで頂くようになっております。まずはお客様の間で先攻・後攻を決めて下さい!』
ゲームどころか椅子一脚ないがらんどうの屋内で、いきなり若い女性のアナウンスがもたらされた。メイコとは無関係な声音なのがまだしもの幸いだ。
「じゃあ俺先攻!」
あとからきた鈴木が勝手に宣言した。
『かしこまりました! 後攻のお客様は、しばらく拘束されますが辛抱して下さいませ』
渕山が抗議する暇もあればこそ、赤く光る三本の輪が突然湧いてきた。輪は彼の頭上からかぶさり、あっという間に手足を気をつけの姿勢で身体の外側から絞めつけた。アナウンスどおり、身じろぎさえできない。
『先攻のお客様は武器をどうぞ!』
輪と同様に、スーパーで鈴木が失ったはずの火炎放射器が目の前の床に現れた。
「おっ、ラッキー!」
鈴木はいそいそと火炎放射器を背負った。
『それではゲームを説明しましょう。今回は『嘘と事実』を楽しんで頂きます。『嘘と事実』は、先攻の質問に後攻が答える形式でゲームが進みます』
先攻という言葉で鈴木の全身が赤く、後攻という言葉で渕山の全身が青く、それぞれ一時的に光った。
『後攻の回答を事実と思ったら、先攻は後攻の拘束リングを一つ外して下さい。リングは手で簡単に外せます。嘘と思ったら火炎放射器で焼き殺して下さい』
今度は拘束リングと火炎放射器が交互に白く二、三回点滅した。
『それらが一回終わるごとに、事実だったかどうかを私が発表します。私はリングを通じて完璧な判断ができます。後攻が事実をいったのに、誤って殺してしまったら二人ともゲームオーバーです』
二人に挟まれた空間に、海賊旗のようなどくろがパッと現れ、数秒後に消えた。
『後攻が嘘をついたのを見抜けずリングを外したら先攻の負けです。むろん、嘘をついた後攻を焼き殺せたら先攻の勝ちです。後攻の拘束リングが三つとも外れたら、先攻と立場を変えてゲームを続けます。なお、同じ質問は一回しかできません。嘘か事実かの判断は、後攻が質問に答えてから十秒以内にすませてください』
「なら、事実を答えている限り永久にゲームが終わらない可能性があるじゃないか」
思わず渕山は口を挟んだ。
『そのとおりです。後攻はいつかは嘘をつかねばなりません。それを先攻が見抜けるかどうかがこのゲームのポイントです。まとめると、
一、後攻が事実を述べ、先攻がリングを外すことが三回続けば立場を交代。
二、後攻が事実を述べたのに焼き殺されたら先攻も失格。
三、後攻が嘘をつき、先攻がリングを外したら先攻の負け。
四、後攻が嘘をつき、焼き殺されたら先攻の勝ち。
五、先攻は後攻の回答を十秒以内に判断。
以上です』
「勝ったらなにかくれるの?」
鈴木は際限なく厚かましい。
『神捨てが成立します』
「マジかよ! さっさと始めようぜ!」
「おいっ、博尾を説得……」
『いつでもどうぞ』
「ようし、じゃあ聞くからな。あんた、俺に殺されたいか?」
もはや鈴木は、神捨ての続行で頭がいっぱいになっている。
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