第13話
『自分の欲望の為にお前は、
大切なものたちを消してしまったのだ。
・・・俺も消えるんだ…
消えるんだ。無くなるんだ。
存在が消えるんだ。
柏木誠と言う人間は存在しなかったと言う事になる。
全ては消えて無くなるんだ…
それで終わりだ』
人と言うのは何かを失って気づくことが
多いものだ。
そしてまた良い思いばかり続き、
神のおかげだと思っていると違う場合もある。
悪魔は逆に神のような振る舞いで良い思いをさせ堕落させ破滅の道へと誘うこともあるのだ。
神の仕業か悪魔の仕業か・・・
また違うものなのか・・・
それは定かではないが
見えないものの仕業とするなら
なぜ誠だったのか?
なぜ誠にそんなメガネを与えたのか?
ごく普通な男にいったい何を求めたのか?
それこそ何かを気づかせる為なのか?
破滅させる為なのか?
それともなんとなくなのか。
そして誠は決心した。
街へ出て最後のスイッチを押すことが
自分の最後の役目。
まだ消えていない誠は最後の街へ、
最後の場所へ向かった。
そして誠がたどり着いた場所。
それはメガネを拾った公園だった。
全てはここから始まった。
始まりの場所で最後をと。
何も変わっていない。
あの時と同じ夕暮れ時でサラリーマンやOL達が仕事疲れを癒している。
変わった事と言えば時が過ぎ、季節が変わり、
どこか悲しげに木々が紅く色づきだしたぐらいだ。
誠はあの時と同じベンチに座り
ここで始まった出来事を回想していた。
『あの日、ここに来なければ・・・
ここで・・・あの時・・・
あの男を見なければ・・・
そっか。あの男も自分が一番大切だったんだな。
メガネなんて拾わなければ・・・
ふふ・・・面白いもんだよ人生は。
何が起こるかわからない』
人生何が起こるかわからないものだ。
メガネを拾わなければどうなっていて、拾ったからどうなるのか。
その結論を確かめる術は「拾ったからどうなるのか」のひとつしかない。
少しの間心を整えるかのようにタバコを吸い瞳を閉じ深く息を吐く誠。
そしてゆっくりとベンチから立ち上がり
もう一度深く深呼吸をした。
『これで・・・いいんだ』
意志を固め、ポケットからメガネを取り出し
誠はメガネをかけた。
これから消えようとしているこの男に心は問いかける言葉はなく、また問われる言葉もなかった。
そして最後のスイッチに指を添え、
何もわからず歩いている女性に向かい
ゆっくりとスイッチを押した。
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