第4話
『そうそう! 最近俺目が悪くなってさ~
で、このメガネを買ったんだよ。
どう?』
興奮が手に伝わり、少し震えながら誠はメガネをかけた。
なぜか文字はもう浮かんではいない。
『なんかガリ勉みた~い。
でも似合うじゃん!』
『ほんと~』
ユキは肘をテーブルにつき、顎を手のひらに乗せメガネをかけた誠を見てまたやさしく微笑んだ。
(・・・押すぞ・・・押してみるぞ・・・)
誠はメガネの縁にある小さなスイッチに指をかけ高鳴る鼓動と欲望、そしてかすかな期待に押されながらスイッチを押した。
(あ・・・ま、
ま、まさか・・・
そんな・・・)
誠の目に飛び込んできたもの・・・
それは真っ白なユキの裸だった。
その大きく真っ白な胸は誠の想像以上に綺麗なものだった。
しかし、今はそんな綺麗なユキの裸よりもメガネの効力が実際に働いた事に誠は驚いていた。
(ありえない・・・
ありえないよ・・・そんな・・・)
メガネをかけると女性の裸が見える。
そんなSFみたいな事が今ここで起こっている。
そうこうしてる間にメガネに書いてあった10分間が過ぎユキは裸ではなくなった。
『どうしたの!? 私を見てポカ~ンと。』
ユキのその声で誠は現実に戻った。
『い、いや・・・その・・・』
まさかユキが裸に見えたと言えるわけがなく、言ってみたところで信じてもらえるはずもなく。
『ユ、ユキちゃん!
お、俺ちょっと用事思い出しちゃって。
ごめん! またね!』
『えっ!?』
とにかく早くひとりになりたかった。
ひとりになってこのメガネとこの不思議な事を考えてみる必要があった。
メガネを外しポケットに入れ、誠は勢いよく喫茶店を飛び出した。
『もう~ 誠! 誠!』
ユキの声も誠にはもう届かない。
『どうしよう・・・どうしよう・・・
マジかよ~・・・マジかよ~・・・』
出てくる言葉も限られ、それを繰り返す誠。
何か悪事を働き、誰かにつけられてる犯罪者のように早歩きな誠。
ただひとつそれと違うところは、
後ろを振り返らず、真っ直ぐ前だけを見ていた。それは迫りくる追っ手は自分の心の中にいたからだ。
そして足早にアパートに戻り鍵を閉め、カーテンを閉め、メガネをテーブルの上に置き、
心を落ち着かせようとまずはタバコに火をつけた。
さて・・・
これはいったいどういう事なのか?
タバコを深く吸いながら少し黙っていた誠はゆっくりと口を開きだした。
『・・・見えた・・・見えたぞ・・・
はっきりとユキちゃんの裸が・・・』
ユキの裸を思い出しているのではない。
見えてはいけないものが見えた現象、そしてこのメガネの力に心は絞られていた。
『コイツはいったい・・・』
メガネを手に取りじっくりと見つめる。
数学式で解こうとしても、はたまた科学的に解読しようとしても、仮に科学的に透けて見えるものはあったとしてもこうもあからさまに。そんなこんなをグルグルと頭の中でなんとか理論づけようとする誠。
やはりおもちゃなのか?
トリックなのか?
と、疑うようなことはしなかった。
現にメガネをかけ、ユキの裸を見てしまった以上は疑う余地がない。
しかし見えた事実と、やはりまだ信じられないと言う思いがぶつかり、考えれば考えるほど頭の中はパニックになった。
『そうだ・・・。
よし・・・もう一度試してみよう!
あれこれ考えるよりもやってみたほうが早いよな!』
結局のところ今の混乱している頭の中に結論を出すならもう一度スイッチを押すしかない。誠はさんざん彷徨った挙げ句、もう一度スイッチを押す事を選んだ。
いつもなんとなくな男が答えを探す行動に出た。
そしてメガネをまたポケットにしまい、
カーテンを閉めたままの部屋を飛び出し
誠はとりあえず駅前に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます