第2話 罪は罰せられ、婚約が始まる
私は手にした紙を広げて、皆に聞こえるように言った。
「ここにあるのは、ジフル殿下の数々の悪行をまとめた一覧です。その一部を、お聞かせしましょう」
私は気合いを入れるように大きく息を吸うと、一気に
「一つ、婚約者である私ことアリエル・ライオハインがいるにも関わらず他の令嬢に不貞行為に及んでいること。一つ、国内での取り扱いが許可されていない薬物をアクド商店から買い付け使用に及んでいること。一つ、同じくアクド商店から用途不明な貴金属類やアクセサリーなどを大量に購入していること。一つ、不当に国内、一部公爵領土の税率を強制的に引き上げ、その一部を着服していること。一つ………」
「うわああああああ!! やめろ!! 言いがかりだ! パパ、こいつまた僕を陥れようとしているよ!!」
私の読んでいる内容に耐えることができなくなり、喚き散らしているジフル殿下。
読み上げの邪魔しているけど、まだまだ多くの罪状がある。
とにかく、腹立たしいのが私がいるのに不貞行為に及んでいること。
完全に馬鹿にしている。私を何だと思っているのだろうか。
都合のいい馬鹿な女だと思っているのだろうか。
「まだまだ、まだまだ言い足りないところですけれど、残りは陛下に」
私は手にしている紙を陛下に渡すと、ドレスの裾を持ち恭しく一礼する。
陛下が目を通すと、顔色が変わっていく。
そして、全部を読み終わらないうちに声を荒げる。
「これは真実なのか、アリエル嬢!」
「はい、真実でございます。このハンゾに証言も合わせ、サインもいただいておりますわ」
さっきまで存在すら消していたはずなのに、ハンゾが私の隣でお辞儀をしていた。
お願いだから黙っていなさいよと、私は無言の圧をハンゾにかけ続ける。
私の視線を感じているのか知らないけど
「
やっぱり喋ってしまった。
陛下も驚かれているような若干引き気味である。
そして気を取り直したように、咳払いすると一言。
「事実確認をさせてもらおう」
陛下は重要な部分に印をつけると確認を急がせた。
待つこと一時間程度で結果が判明することになる。
「ジフル! 何か言う事はあるか? 事実と異なる内容があれば聞こう」
「ちがっ、違うちがうんだ! パパ……いや、陛下! 聞いてください、これは全て誤解なんです! アリエルの
陛下はジフル殿下の醜い言い訳を手で制すると、こう宣言した。
「今よりジフルの継承権を剥奪とし、アリツを次期国王とする事を決定する! ジフルはしばらく謹慎処分とし、追って処罰を与える!」
陛下が近衛兵に指示すると、ジフル殿下を連れて出て行った。
喚き散らしながら引きずられていく姿は、惨めと言う他ない。
最後の最後まで否定していたけれど、あれでは誰も言葉は耳に入らないだろう。
ジフル殿下が見えなくなると、その途端に部屋の中では大臣や兵達が歓声を上げていた。
「「「アリツ殿下万歳!!」」」
普段からの
「まさか、ジフルがそこまで愚かとは……」
「殿下、兄上は皆の厚意に甘え過ぎていたのだと思います。きちんと反省するように私も協力していきます!」
「アリツ……余を許してくれ」
「まだ未熟な私ですが、陛下に並べる様に精進いたします」
あのジフル殿下を見て、どうしてこんなに立派に育ったのかと不思議なくらいだわ。何度も助けていただいた事もあるし、性格もいいんだもの、相手なんて
アリツ殿下はきっと気になる令嬢とかいるのでしょうし。
「さて、大変だ。愛しの我が娘、アリエルが一人身となってしまった!」
お父様の芝居がかったような言葉に、アリツ殿下がハッとした顔をしている。
そして急いで私の元に駆け寄ってくるアリツ殿下。
何も急ぐこともないはずなのに、どうしたのだろう。
「私は、兄上と婚約する前からアリエル嬢を見ていました。婚約が破棄された今、もう誰かに取られたくはありません!」
急な告白とも取れる内容に頭が真っ白になる。
私を見てくれていた……でも、確かに
まさか、精霊から伝えられた「もう一つの事実」が本当だったなんて。
その事実とは、アリツ殿下が私に好意を持っていること。
急にそんな事を伝えられても「はいそうですか」とは、すぐに頭が追い付かないものである。
するとハンゾが音もなく現れて、ニヤリと笑う。
「お嬢はうらやましい。こんな女性関係が潔白で誠実な殿下はいないでござるよ。デュッフ!
「こら、ハンゾ! 勝手に喋らないの!」
私が怒る前にはシュッと消えていた。
まったく、何てクセの強い。
本当に語尾のアレさえなければ有能なのに。
お父様からのプレゼントが多くなったなと思ったらそういう事だったのね。
最近少なくなったのは……そっか、婚約してからだっけ。
宮殿でジフル殿下が迫って来た時には、すぐに駆け付けてくれていた。
思い返せばアリツ殿下には、毎回助けてもらっていた。
ジフル殿下が嫌すぎて嫌すぎて、その事でさえも記憶の隅に一緒に押し込んでしまっていた。
「アリエル・ライオハイン。私からの婚約を受け入れてもらえないでしょうか」
真剣な眼差しで訴えるアリツ殿下の言葉に、断る理由はなかった。
精霊も私に
たとえ精霊が認めなかったとしても、彼を選ぶだろう。
私を見守ってくれていた彼と、これからの思い出を紡いでいきたい。
差し出された手を取り、私は答えを返す。
「はい、喜んでお受けいたします。アリツ殿下」
アリツ殿下の喜びの表情を見てから、私は一呼吸おいてこう伝える。
「だ・け・ど、『婚約を破棄する』なんて言ったら許しませんからねっ!」
冗談で言う私の声に、アリツ殿下は「幸せにしますよ」と小さく口にした。
婚約破棄から始まる婚約を うららぎ @uraragi_kaku
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