第17話 発作
呼び出しのベルの音で目が覚めたのは、真夜中だった。殆ど聞いた事のなかったその音色に、アンソニーは飛び起きて、慌ててパーシーの部屋を訪ねた。
「如何なさいましたか?!」
そこには、まるで子供のように布団にくるまったパーシーの姿があった。
「……また、僕を置き去りにするんだろう、ママ、パパ」
主人のいつもとは違う、潤み声が聞こえてくる。
「なんで僕を置いて行ったの? 僕は邪魔者だった?」
「パーシー様!」
布団の上から震える彼を抱きしめ、アンソニーは言った。
「昔の幻です。あなたには私がついています!」
その声に、パーシーの動きが止まった。すると、
「"お前”は誰だ」
低い声が聞こえた。
「お前が、パパとママを殺したのだな」
「パーシー様!」
不安を感じ、アンソニーは言った。
「私はアンソニー・ブルーウッド。あなたのヴァレットです!」
「アンソニー……?」
そう言ったパーシーの声色は戻っていた。
「アンソニー君か。……どうかしたのかい? こんな夜更けに」
と、彼は布団から顔を覗かせる。そうして、首を傾げた。
「あなたの部屋から呼び出しのベルがなりました」
「呼び出しの、ベル? 使っていないよ。僕は眠っていた。君の大声で目が覚めたのだ」
何だって。アンソニーは困惑した。そんな態度を見せるヴァレットに、主人は己の頬を伝った涙の意味を理解した。
「成る程ね……」
等と言葉を濁す。
「たまに起きる事なのだ。発作のようにね。僕にも理解できていない。世話をかけてしまったね」
「いいえ、ご無事ならば何よりです」
「有難う。君は本当に優しいよ」
「それが、仕事ですから」
淡々とアンソニーは答えた。あの時聞いた声は、明らかに目前で肩を竦めている主人ではない。発作と言ったが、彼は多重人格なのだろうか。思考は巡るばかりだ。
「ただ、眠る直前、ふと昔を思い出したのは確かだね」
布団に潜り込み、パーシーは言った。
やはり、彼の心の中の時計は、両親が死んだ日で止まっているのだろう。
アンソニーは、そう思った。
では、あの低い声の主は誰だ。
そんな疑問も湧いてくる。
……明日、執事に聞いてみよう。
そう思いながら、己の部屋に入った。
翌日まだパーシーが起きる前に、アンソニーはこの屋敷の執事を訪ねた。
ここで、改めてヒースコート邸の影の主が登場する。名前はオズワルド・バウンド。白髪に、白い髭の似合う老人だ。
「君から訪ねてくるとは珍しい」
与えられた部屋の椅子に座った彼は、そう言って首を傾げた。
「何か、あったのかね?」
「いえ、些細ない事なのですが……」
アンソニーは言い淀んだ。常に主人について回るヴァレットと違い、執事はハウスキーパーと肩を並べて屋敷を支配する。執事は男性使用人、ハウスキーパーは女性使用人の全てを司っているのだ。
「昨夜、パーシー様からの呼び出しのベルで自室に向かった所、お口から子供のような声と、そのあとに、いつものパーシー様と違う低い声が聞こえたのです」
「ほう」
と、執事は相槌を打つ。
「その声は、"お前は誰だ”そう言いました。そのあとすぐにパーシー様はお目覚めになられ、その際に、眠る時にふと昔を思い出した。そう言われたのです。この事に対して、何か心当たりはありますか?」
すると、オズワルドは立ち上がった。
「使用人用の食堂に向かいながら話そう。パーシー様もまだ目覚めてはおられないだろう」
「判りました」
アンソニーは頷き、執事が立ち上がるのを待った。
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