第10話 お互いにね

 魔法少女の魔法という非現実的な攻撃を見た直後だった。

 僕の視界にはナイフが映っていた。


 高速で黒之貂こくのちょうさんに向かって飛んでいったナイフは、


「わ……!」黒之貂こくのちょうさんがスティックで弾き落とす。「まだ魔物がいた……?」

「魔物ではありません」冷たくてクールな、威圧的な声。「魔法少女ブラックナイン……あなたの命を、奪いに来ました」


 そうして後ろ側の扉から現れたのは……これまた見たことがある人物だった。


 えーっと、誰だったっけ……? たしか同じクラスの……


「わぁ……たしかあなた……白河しらかわ夜船よふねさん?」


 言われて思い出した。


 目の前の少女は……黒装束に身を包んでいる鋭い目つきの少女は、白河しらかわ夜船よふねだ。


 小柄の黒髪ショート……間違いなく白河しらかわさんなのだけれど、違和感がすごい。


 自己紹介のときの彼女は、とても明るそうに見えた。学級委員長でもやりそうな、明るくて元気で優しそうな女の子。


 なのに今の目の前の白河しらかわさんは……鋭い目つきをしている。表情から冷たさが伝わってくるくらいの危険度だった。


白河しらかわさん……」魔法少女ブラックナイン……いや、黒之貂こくのちょうさんは言う。「どうしたの? 忘れ物?」

「いいえ」白河しらかわさんはナイフをさらに取り出して、「あなたを殺しに来ました」

「殺害予告……?」黒之貂こくのちょうさんは怪訝そうに、「……なんで? というか、あなた白河しらかわさんだよね? なんでボクを狙うの?」

「……そうですね。私のことは賞金稼ぎか殺し屋だと思ってください」


 さらにヒロインの属性が増えた。アンドロイド、異世界転生者、魔法少女……そして最後に殺し屋。さすがに最後の追加だと思う。もう世界観がメチャクチャだ。


 白河しらかわさんはナイフを黒之貂こくのちょうさんに突きつけて、


「簡潔に言うと……あなたには賞金がかかっています。あなたを殺せば、私は賞金がもらえる」

「へぇ……だからボクを狙うの?」

「はい」

「懸賞金はいくら?」

「1億」

「安く見られたね」高いだろう……って、魔法少女だから安いのか? 「まだ宝くじでも買ったほうが、確率高いと思うよ」

「普通の人間なら、そうでしょうね」

「自分は普通じゃないって言いたいの?」

「はい」白河しらかわさんはナイフを熟練の手付きで操って見せる。「……鍛錬をしました。誰が相手でも殺せるように」

「怖いねぇ……」

 

 怖いのはこっちだよ。僕のほうがよっぽど怖がってるよ。なんだこの状況。

 

 ……まったく今日はどうかしている。アンドロイドと異世界転生者に出会って……それだけでも驚天動地なのだ。なのに……今度は魔法少女と殺し屋?

 もう、殺し屋のキャラが薄いって思ってるよ。現実世界にも存在しそうだと思ってるよ。普通の人だと思ってるよ。他と比べたらまともだよ。


「さて……」黒之貂こくのちょうさんはスティックを軽く振って、「とにかく、あなたはボクを殺しに来たんだね?」

「そう言っています。理解力が、低いんですか?」

「雑な挑発をどうも」そして黒之貂こくのちょうさんは僕のほうを指して、「白河しらかわさんは、他の人に見られてもいいの? 白河しらかわさんが殺し屋だってこと、そこの彼にバレちゃったよ?」

「……少し不都合ですが……ようやくあなたを見つけたもので」どうやら白河しらかわさんは黒之貂こくのちょうさんを探していたらしい。「……とにかく、邪魔者は始末すればいい」

「ボクと同じ考えだね」おや……? なんだか危ない方向に話が進んでいるのでは? 「ボクとしても、目撃者がいるのはマズイんだ。ボクが魔法少女だってことは、知られたくないから」

「……それは不注意でしたね。もっと、周りに気をつけてください」

「お互いにね」

「……そうですね」


 勝手に話を進めるな。僕はどうしたらいいんだ。この状況で一般人である僕はどうしたらいいんだ。魔法少女と殺し屋のインパクトには勝てないよ。


 月明かりが教室を照らす。


 そして、白河しらかわさんが言った。


「……見られたからには、殺すしかありませんね」

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