第9話 クラスのみんなには

「キラキラ~ン」フリフリの衣装に身を包んで、その魔法少女はスティックを得意気に振り回す。「街の平和を乱す魔物め……懲らしめてやる」


 語尾に音符のマークでもついてそうなくらい弾んだ声だった。


 魔法少女の目の前には……目玉の魔物がいた。全身が魔物なタイプの……かわいいと思う人と気持ち悪いと思う人が半々くらいであろう魔物がいた。


「正義を守る魔法のパワー」スゲー楽しそうだった。「喰らえ……ファンタジックドライブ!」


 謎の技名とともに繰り出されたのは、魔法だった。スティックの先からかわいくない威力の魔法が打ち出され、一瞬にして目玉の魔物を黒焦げにした。


「一丁上がりぃ」本当に楽しそうに戦う魔法少女だった。「平和を乱す魔物め……思い知ったか」


 ハッハッハ、と彼女は高笑いする。


 ……なんかこの声、聞いたことがあるような? どこかで聞いたことがある声のような……


「さて……」魔法少女はスキップしながら魔物の亡骸を始末する。魔法で異空間に消し去って、そして、「って……うわ……!」


 そこでようやく、僕が扉から見ていたことに気づいたようだった。


「ビックリした……キミ、いつからいたの?」

「……えーっと……キラキラ~ン、ってあたりから……」

「そっからならいいや」いいんかい。「それで、どうしたの? 忘れ物?」

「そうだけど……」やっぱりこの声……どっかで聞いたことがあるんだよな……どこだっけ……「あ……」


 なんとなく声の主に思い当たりがあった。


「……黒之貂こくのちょうさん……?」

「……へ……?」


 図星らしかった。みるみるうちに彼女の顔が赤くなって、目をまんまるにしていた。


 黒之貂こくのちょうきゅう……今日の自己紹介で聞いた名前と声だった。


 メガネをかけた、大人しそうな女子。それが第一印象だった。


 それがどうだ……今のこの黒之貂こくのちょうさんの姿は。楽しそうに嬉しそうに、弾むような動作で魔物を倒す魔法少女になっている。


 姿が違いすぎる。大人しそうな容姿とは打って変わって、快活で明るい少女になっている。


「な……なんで……」黒之貂こくのちょうさんはワタワタと慌てて、「なんで、わかったの……?」

「声が一緒だったから……」

「……声……」黒之貂こくのちょうさんは自分の喉に手を当てて、「あ……そうか……変身しても声は変わってないのか……」


 変身……つまり、この人は黒之貂こくのちょうさんで合っているのか……メガネもないし容姿も違うし、確信はなかった。

 しかし本人の反応を見る限り、正解だったらしい。


「ね、ねぇ……」黒之貂こくのちょうさん(魔法少女バージョン)は僕によってきて、「このことは、内緒にして?」

「このことって……」

「ボク……魔法少女なの」マジか。このクラスマジか。アンドロイド、異世界転生者、魔法少女? 「バレたくないから……クラスのみんなには内緒だよ……?」


 そんな上目遣いされても困る。かわいいから困る。


 とはいえ、もともとバラすつもりなんてない。黒之貂こくのちょうさんが魔法少女をやっていたとしても……元気に楽しそうにウキウキと、ピンク色のフリフリ衣装を着て魔法少女をやっていたとしても、僕には関係がない。

 

 心配せずとも誰にも言わない……そうなんだけど……


 なんで今度は、ナイフが飛んでくるんだろう。

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