第8話 私も忘れてたようだ

 入学式を終えて、僕は1人帰路につく。


 今日はとんでもない1日だった。


 アンドロイドに会って異世界転生者と出会って、さらに相棒までできてしまった。ついでに真一まいちは自己紹介でスベっていた。まぁ真一まいちだし大丈夫だろう。


 とんでもないクラスになってしまったと思いつつ家に帰る。


 一人暮らしのボロアパート。両親のいない高校生の生活に余裕なんてあるはずもなく、狭いアパートの一人暮らしである。とはいえ、一応両親の生命保険やらで高校は卒業できそうだ。ありがたいことである。


 制服を脱いで、布団に転がり込む。なんだか今日は疲れた。


 なんでこんなに疲れているのかと思ったが、なんのことはない。殴られたからだ。中学生を助けて、男たちに殴られたからだ。アンドロイドと異世界転生者のショックで忘れていた。


 そのまま、しばし仮眠をとる。


 それからしばらくして目を覚まして、明日の準備をしようと立ち上がった。


「たしかプリントが……」


 明日の予定が書かれたプリントがあるはずである。それを探してカバンをひっくり返すが、


「あれ……?」


 ない。プリントが見当たらない。カバンの中を隅々まで探しても見当たらない。


「まいったな……」


 明日必要なものやら行事予定やら、すべてあのプリントに書いてあったはずだ。別に忘れ物したってかまわないと思うが、なんだかモヤモヤする。


 というわけで、真一まいちに連絡する。


『プリント持って帰るの忘れた』


 しばらくして、返信。


『しょうがないなぁ……写真撮って送ってあげる』


 ありがたい。やはり持つべきものは頼りになる幼馴染だ。前世の僕よ……ありがとう。お前が世界を救ってくれたおかげで、今の僕は最高の幼馴染に恵まれている。


 スマホが震える。真一まいちからのチャットだ。


『私も忘れてたようだ』あのアホ幼馴染……って、人のことは言えないな。『今から学校に取りに行く』

『じゃあ、僕も行く』

『ちょっと準備に時間がかかるから、先に行ってて』

『了解』


 というわけで、一応制服に着替えて学校に出発する。私服でも良いかもしれないが、学校に行くときは制服であったほうがいい気がする。


 どうやら僕の仮眠は結構な時間を使っていたようで、すでに周りは夜だった。


 こうして夜の街を歩いていると、この世は普通に思える。アンドロイドなんていないし、異世界転生者もいない。平凡でありきたりで、それでいて素晴らしい人間たちが生きているだけの世界に思える。


 ……今日の入学式のことは、夢だったのではないだろうか。僕はそんなことを思っていた。


 アンドロイド? 異世界転生者? そんなものが現実に存在するだろうか。夢だったと仮定するならば辻褄が合う。


 明日が本当の入学式で、僕は楽しみであるがあまり夢を見た。その夢でアンドロイドが現れて……


 そんな事を考えているうちに、学校にたどり着いた。真一まいちを待とうかとも思ったが、まぁプリントを取りに行くだけだ。真一まいちのプリントもついでに取ってきてやろう。


 警備員さんに事情を説明して、門を開けてもらう。


 夜の学校とは不気味なものだ。まだ通いなれていない学校だから余計にそう思う。暗いし同じような部屋が続くし……なんだか同じ場所をループしているような感覚にとらわれる。


 ……はて……僕の教室はどこだったかな……まだ入学初日だからよくわからない。廊下も暗くて、現在地がわかりにくい。


 そんな中、


「……?」


 音が聞こえた。それも一度や二度じゃない。


 ……なんの音だろう。こんな夜中の学校に誰かいるのだろうか? 誰かいるにしても、ここまで断続的に音を立てることがあるのだろうか。


 音に引き寄せられるように、僕はとある教室にたどり着いた。


 そして、後悔した。こんな場面見るんじゃなかった。


 その教室で……僕が今日から所属している教室で……


 魔法少女が戦っていた。

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